肉眼では大迫力の星空が、望遠鏡ではそれほどでもなかった件

西表島のレポートでも書きましたが、肉眼で見るとすごい迫力の離島の星空が、なぜか望遠鏡で見ると本州の暗い空での観望とそれほど変わりませんでした。離島から帰ってきて以来、このことがずっと頭に引っかかっていました。

ところが先日の胎内星まつりで、双望会にもよく来てくれていたベテラン観測者Tさんがビノテクノのブースに立ち寄ってくれたので、この疑問をぶつけてみました。するとたちどころに問題点を見つけてくれました。そのときのやりとりはこんな感じでした。

Tさん「何倍ぐらいで観てました?」
私「えっと、23倍ぐらいです」
Tさん「あ~、それはたぶん倍率が高すぎますね」
私「えっ?」(自分の中ではかなり低倍率)
Tさん「望遠鏡の口径は?」
私「102mmです」
Tさん「ということは、瞳径が5mmもないですね」
私「そうなりますね」(瞳径=口径÷倍率=102÷23=4.4mm)
Tさん「本州では5mmぐらいしか開かない瞳径が、離島のような暗い空では7mmまで開きます。そういう極低倍率でみると、本州との差がわかりますよ」

瞳径の問題とは思ってもいませんでした。目からウロコです。たしかに数十年前は、7X50というスペックの双眼鏡をよく見かけました。この場合の瞳径は約7mmです。しかしその後販売される天文用双眼鏡の瞳径5mmぐらいが主流となりました。その理由は「もう空がそんなに暗くないので人間の瞳は7mmも開かないから」でした。しかし今でも離島は7mm開く環境にあるということです。腹に落ちる解説でした。さすがTさんです。

しかし別の問題が見つかりました。瞳径が7mmになるような光学系の実現が意外と難しいです。詳しい計算は省きますが、瞳径7mmとなるアイピースの焦点距離は、瞳径に対物レンズのF値をかけた数値になります。例えば今回私が使った望遠鏡のF値は7だったので、瞳径7mmとなるアイピースの焦点距離は7X7=49mmとなります。2インチの差し込みでこんなアイピースありません。仮にあったとしても、目幅が合わないか、見かけ視野が極端に狭いかです。つまりF7の鏡筒では事実上無理となります。

F6ぐらいの対物レンズと焦点距離40mmぐらいのアイピースでやっと7mmに近い瞳径が得られるので、このあたりの組み合わせが現実解のような気がします。もちろんF5ならさらにアイピースの選択肢が増えますが、今度は逆に、そういうFのアポクロマート鏡筒がなかなかありません。しかし極低倍率で使うならアクロマートもありかもしれません。

来年もどこかの離島に行こうと思っているので、それまでにいろいろ考えるつもりです。

西表島・小浜島で星を見てきました

一昨年の父島、昨年の宮古島に引き続き、7/5-7/10の日程で西表島(いりおもてじま)と小浜島(こはまじま)へ行ってきました。以下はそのレポートです(長文注意)。

西表島ってどこ?

Googleマップより

まずは場所の確認です。西表島や小浜島、石垣島は、上の地図の赤丸の位置にあります。沖縄本島よりも台湾に近いです。北緯25度で本州より約10度低く、東経124度で明石より11度ほど西です。このため太陽の南中高度はこの時期ほぼ天頂、太陽の南中時刻は午後1時近くになります。

アクセス

竹富町観光協会HPより

この地域で空港があるのは石垣島だけです。他の島へ行くにはまず飛行機で石垣島へ行き、そこからフェリーに乗ります。中部国際空港から石垣島への直行便は1日1便ですが、那覇経由も含めれば一日数便の飛行機があります。同様にフェリーも一日数便あります。

ここから各島へのフェリーが出航

日程

今回のツアーは欲張って2つの島に行きました(西表島3泊&小浜島2泊)。そのため移動の多いツアーとなりました。ここまで来たら憧れの波照間島行きも考えましたが、さらに移動のロスが大きくなるので断念しました。

機材と梱包

鏡筒:BINOKIT用10.2cm3枚玉SD対物レンズユニット+BORG鏡筒
接眼部:EZM(アルミメッキ)+ハイペリオンズームアイピース
架台:Sky-Watcher AZ-GTi+ノースマウントCT-20用ハーフピラー
三脚:MORE BLUE製カーボン三脚
バッテリー:MAKITAリチウムイオンバッテリー18V6Ah+電源変換アダプター
カメラ:富士フィルムX-T20+18-55mmズーム

今回の機材はこれです。商売柄双眼にしたいところでしたが、今回は島をまたぐ移動があるので宅配が使えず、すべて自分で運ばなければならないので単眼にしました。それでもけっこうな重量となりました。

スーツケースに詰め込んだ機材

運ぶにあたってカメラバッグも考えましたが、最終的には大きめのスーツケースにしました。上の写真のように段ボールで個包装し、隙間が空かないようにスーツケースに詰めました。この状態で航空会社に荷物を預けましたが特に機材の破損はありませんでした。もちろんこれは国内線だったからよかったのかもしれません。国際線はもう少し手荒いと聞いてますが、海外へ行くことはもうないので要らぬ心配です。

西表島について

前半3晩を宿泊した西表島は、ジャングルとマングローブに覆われた自然豊かな島です。最高標高が470mもあり、降雨量も多いようです。そのため離島にしては珍しく水が豊富です。宿や飲食店のほとんどは島の北部(上原港を中心としたエリア)にあります。

マングローブ林

イリオモテヤマネコで有名な島でもあり、実際島内いたることろに「ヤマネコ注意」の看板がありますが、夜行性ということもあり、滞在中一度も見ることはありませんでした。

ハブもいるらしいのですが、島の住人ですら滅多に見ることはないそうです。しかも西表島のハブは弱毒性らしく、いまだかつて西表島でハブに噛まれて死んだ人はひとりもいないとのことでした。

西表島での観望

観望は「うなりざき公園展望台」という場所で行いました(下のマップの赤丸)。ここから南はすべてジャングルで街の光がなく、地平線近くまでびっしり星が見えました。

Googleマップより

泊まったペンションから車で10分もかからない場所にあり見晴らしも抜群です(ほぼ360度パノラマ)。

明るい時間のうなりざき公園
うなりざき公園から見た日没直後の海岸風景

この場所に毎晩通って星を見たのですが、一度もスコールに見舞われることもなく3晩とも快晴でした。こんなに晴れたのは一昨年から始めた離島ツアーではじめてのことです。ちなみにこの時期梅雨前線は本州に北上しているので、西表島はすでに梅雨明けしています。

架台AZ-GTiはそこそこ優秀で、ドンピシャとは言わずとも当たらずとも遠からずといった感じでサクサクと自動導入してくれました。

春から夏の主だった星雲星団はすべて見ましたが、圧巻の天体はケンタウルス座のオメガ星団(NGC5139)でした。この場所でも南中高度は15度ぐらいで、薄明が終わるのを待って見る頃にはもう少し高度が下がっていました。それでも十分な明るさでその勇姿を眺めることができました。

10cmは10cm

少しクールな話になります。これは父島や宮古島でも感じたことですが、10cmでの観望は、本州の暗い空での観望とそれほど変わりません。もちろん肉眼で見える天の川付近の星の数はこちらの方が圧倒的に多いのですが、不思議なことに望遠鏡で覗いてみるとそれほど迫力がありません。「これぐらいなら本州で見たことがある」というのが正直な感想です。

暗い天体も同様で、安定して見えるのは10等級ぐらいまで。11等級はほとんど見えません。頑張れば存在ぐらいはわかるかもしれませんが、間違っても20cmクラスの見え方にはなりません。これぐらいの暗さが10cmクラスの限界なのかなと思います。

星座双眼鏡大活躍

逆にこの空で大活躍したのが星座双眼鏡です。持参したのはメガネ使用者でも最大視野が確保される笠井トレーディングWideBino30GF。ただでさえ星数の多い天の川付近の星の数がさらに倍増。変な話ですが10cmより感動しました。暗い空でこそ真価を発揮する機材です。

笠井トレーディングHPより

星野写真

時間があったので、持ってきたミラーレス一眼をAZ-GTiに載せて、30秒のタイマー撮影で写真も撮りました。

アルカスイス台座を使った自作雲台

ISO6400、開放から半分だけ絞りました。一応自動追尾しているのでガイド撮影です。おかげで割とクオリティの高い写真になりました。

クリックすると画像が拡大します。さそり座の高度に注目!
クリックすると拡大します。さそり座からいて座付近
クリックすると拡大します。夏の大三角

西表島の宿泊

泊まった宿はペンション・イリオモテというペンションでした。島内の周回道路沿いにありますが、特に看板が出ていないので、うっかりすると入口を見落とします。

ペンション・イリオモテの入口

部屋の窓の外はすでにジャングルでした

部屋から撮った風景

夕方になると毎晩ペンションの中庭にたくさんのカメが現れました。愛嬌ある歩き方をしますが、天然記念物とのことで接触禁止でした。

ヤエヤマセマルハコガメ(?)

由布島水牛ツアー

西表島の東部海岸から数百メートル離れた場所にある由布島(ゆぶじま)まで、水牛車に乗って渡るツアーに参加しました。

ほぼ干潮の時間帯

ときどき水牛が尻尾を振るので「あれは機嫌がいいのですか?」とガイドに訊ねたら、「いえ、逆です」とのことでした。

水牛のサオリちゃん
由布島内のショップにて

カヌー&トレッキング&キャニオニングツアー

西表島ならではのアクティビティーにも参加しました。利用したのは西表ポロロッカさんの「大はしゃぎコース」です。

まずはカヌーを漕いで川を遡上。川といってもほとんど流れがなく、カヌー初心者の私でも難なく漕げました。ジャングルの養分がたっぷり溶け込んでいるので川の水は濁っています。

生まれて初めて漕ぐカヌー

20分ほど漕いだらカヌーは係留してここからジャングル内の滝までトレッキング。

カラフルなカヌー係留所
ガジュマルの大木
足元は木の根がびっしり
最初の目的地ピナイサーラの滝に到着

ここからまたカヌー&トレッキングで別の地点に移動。そこから沢下り。途中数か所、岩の上から水に飛び込みました。ヘルメットとウォータージャケットを装着しているので怖くありません。

大はしゃぎ中の服部

ツアーが終わって部屋に戻ると足が筋肉痛で悲鳴を上げていましたが、貴重な体験となりました。

子午線モニュメント

島内にはこんなモニュメントもありました。1から9までの数字が並ぶ経度地点のモニュメントです。それだけといえばそれだけの場所です(笑)

そのすぐ隣りにあったイタリアンのお店で一服。この時期の沖縄地域は、パイナップルをはじめあらゆるフルーツの旬だそうです。ここではマンゴー100%ジュースをいただきました。

小浜島へ移動

西表島観光を満喫したあと、4日目に小浜島へ移動しました。小浜島へ渡るには、西表島の大原港へ移動しなければなりません。宿があった上原港付近からレンタカーで小一時間かかりました。レンタカーは大原港の営業所で乗り捨てです。

ちなみに西表島でタクシーを見つけることは困難です。ゼロでは無いそうですが、イリオモテヤマネコ同様、滞在中一度も見ませんでした。

小浜島の宿泊

小浜島では奮発して、高級リゾートホテルはいむるぶしに宿泊しました。小浜島は朝の連ドラ「ちゅらさん」の主人公エリーの出身地として有名ですが、実際には小さい島で、観光資源もほとんどありません。

その代わりにホテルはいむるぶしは、広大な敷地の中にいろいろなタイプの宿泊施設、レストラン、カフェ、ショップ、プール、プライベートビーチを備え、ホテル内で自己完結しています。すぐとなりの星野リゾートもおそらく同じだと思います。

またホテル内はゴルフ用(?)カートで移動します。これがないと部屋からレストランまでの移動すら困難です。しかしこのカートが曲者で、運転しづらく、振動の激しい乗り物でした。とてもではありませんが、これで望遠鏡を運ぶことはできません。かといって敷地内に車の乗り入れができないので、観望するとしたら、部屋のすぐ外になります。

ところがあろうことか、ホテルの敷地内はどこも照明が「完備」され、暗い場所がありません。実にもったいない話です。

小浜島滞在中、天気はそれほど良くなかったのですが、それでも二晩とも夜中に少しだけ晴れました。そのとき照明の直撃がないところへ徒歩で移動して空を見たら、西表島と遜色ない雄大な天の川が見えました。地理的条件を考えたら当然です。

望遠鏡を出そうかと思っていたらすぐに曇ってしまって結局観望は諦めました。西表島で好天に恵まれたから良かったものの、小浜島で勝負だったら悩ましい状況でした。教訓です。小浜島で星を見たかったら、こういうところに泊まってはいけません。もっと安い宿に泊まって、夜間車で観望地に移動するのが賢い選択です。もっとも星空観望を除けば、ホテルはいむるぶしではリゾート気分が十二分に満喫できます。

幻の島上陸ツアー

自己完結しているホテルを抜け出して、小浜島の港からボートで15分ほどのところにある、満潮になると水没する幻の島に上陸するツアーに行ってきました。正式名称は『浜島』というそうですが、三日月状の砂地ですぐそばまでボートが近づけます。

海の色と空の色に注目!

この世の楽園のような景色を楽しんだあとは、さらにボートで移動して、水深が浅く、サンゴ礁のある場所で小1時間ほどシュノーケリングをしました。

シュノーケリングも今回で3回目になるのでだいぶ要領が分かってきました。戸惑うことはありません。シュノーケリングジャケットを装着しているので、疲れたら仰向けになるだけです。そうすると自動的に顔が水面から出て休憩できます。

回復したらまたうつ伏せ姿勢で足ヒレを動かしてサンゴ礁の観察です。指先ほどのサイズから手のひらサイズぐらいまで、大小さまざまな魚がサンゴ礁を縫うように泳いでいました。何度見ても癒やされる景色です。

静かな島、小浜島

「何もないですよ」と言われたものの、それでもレンタカーで島内を回りました。確かに特別なものはありませんでしたが、サトウキビ畑や牛の牧場があり、実にのどかで静かな風景でした。島の中央部を除けば、人がほとんど見当たりません。

本州なら観光客が殺到しそうな美しいビーチにも人がいません。小浜島ではまったく特別な景色ではなく、ごくありふれた景色なのでしょう。素敵です。

細崎(くばざき)海岸付近のビーチ

最後に

そんなこんなで今回もひと足早く夏休みを満喫してきました。今回は特に西表島で3晩快晴に恵まれたので大成功と言えるツアーでした。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。

おわり

ダラスで日食を見てきました

4/6-4/11の日程でアメリカ・ダラスへ皆既日食を観に行ってきました。生まれて初めて皆既日食を見ることができたものの、ダラス滞在中大変な事態に遭遇しました。以下はそのレポートです(長文注意)。

はじめに

以前ブログに書いた通り、業者のツアーに参加せず、自分で飛行機とホテルを手配してのツアーでした。同行者は高校時代の天文部同級生A(イニシャルではありません)。家庭の事情で出発直前まで参加が危ぶまれていましたが何とか参加可能となりました。

宿泊先はダラスの東側に隣接するメスキート(Mesquite)という街です。この街自体が皆既食帯に含まれるので、この宿の敷地内で日食を観ました。皆既食帯のど真ん中ではありませんが、それでも皆既時間が4分1秒あります。

Googleマップより

出発!

名古屋市内に住むAを車でピックアップして4/6の昼過ぎ、中部国際空港に車で到着。そこからまずは成田へ。そして18:30、アメリカン航空のダラス直行便が離陸しました。この便はアメリカ・ウェーコやメキシコ・マサトラン、トレオンで日食観望するツアー客も乗っていてほぼ満席でした。

メスキート到着

約12時間のフライトを経て予定通りダラスに到着。日付変更線をまたいでいるので、現地時間は出発と同日4/6の16時頃です。入管ゲートはたいへんな混雑で通過に小一時間かかりました。ここからタクシーを使ってメスキートへ移動。レンタカーを借りようか迷いましたが、宿泊先に着いてしまえばほとんど移動しないのと、通行帯が日本と逆で運転リスクがあるのでタクシーを選びました。

宿泊先。見た目はきれいだが施設はかなり古い。

宿泊先はホテルというより、アメリカ映画によく出てくる「モーテル」です。サマータイムのせいで19時を過ぎてもちっとも暗くありません。このすぐ近くにあるタコスの店で晩御飯のハンバーガーを食べました。

日本の倍ぐらいのボリュームのハンバーガー&大量のフライドポテト(完食不能)

店内にはスナックや飲み物も売っていたので、翌日の朝ご飯用にパンや水も買っていきました。

大事件発生!

翌日の4/7(旅程2日目)午前10時頃、いきなり大変なことが起きました。

宿泊した部屋の扉

モーテル周りの景色を撮ろうとコンデジとスマホだけを持って部屋を出、15分ほどして3階の自分の部屋の前に戻ると、扉が少し開いていることに気づきました。元々この扉のオートロックは調子が悪く、カードを差し込んでもなかなか開かなかったり、閉めるときもドアをしっかり手前に引かないとロックがかからなかったりしました。

「あれ?しっかり閉めたつもりだったけど??」と思いつつ部屋の中に入って驚きました。外出前に組み立てたばかりの望遠鏡機材一式がこつ然と消えています。

盗難にあった機材。出発前に撮影した画像

落ち着いて室内を見回すと、床に置いてあったカメラバッグもありません。この中にはミラーレス一眼レフカメラが入っていました。そして一番ショックだったのが、パスポートやクレジットカード、現金の入っていた手持ちバッグが無くなっていたことです。私が外出していた短い時間に誰かが侵入し、金目の物をすべて奪っていきました。しかし部屋全体は荒らされた感じがありません。短い時間に効率よく金品だけを持ち出した手際の良さに驚きました。

しかし驚いている場合ではありません。私と異なる部屋でこの難を免れたAに電話をかけ、すぐに部屋に来てもらいました。Aも大変驚きました。「どうしよう?」「まずはフロントに行こう」ということで、フロントに行って状況を伝えると、フロント職員はそれほど驚いた感じもなく、従業員を一人呼んで、私と一緒に現場を確認するよう指示しました。私の室内も含めて施設内を一通り見回りましたが、有力な手がかりはありませんでした。

OFFICE=フロント

警察も呼んでほしいとフロントに頼みましたが「自分で呼んでください」とのこと。このあたりからこのモーテルへの違和感が高まってきました。こちらにとっては生涯の一大事ですが、あちらにとってはまるで「よくあること」、「当方は関係ない」といった風情です。

自分のスマホから’911’に電話をかけ、カタコトの英語で場所を伝えると、30分ほどで警官が現れました。私の名前、電話番号、盗まれたもの、などをメモると無線でどこかに連絡を取り、8桁の番号を書いたメモをくれました。事件番号だそうです。警官の対応はそれだけでした。近隣の部屋の聞き込みをするでもなく、現場の写真を撮るでもなく、まして指紋採取の鑑識班を呼ぶこともありません。おそらく彼らにとっても「よくあること」で、事情聴取して事件番号を伝えたら業務完了。いちいち捜査してたら仕事が回らないのでしょう。

問題はパスポート

盗られたものが戻ってくる可能性は限りなくゼロ。諦めるしかありません。しかしパスポートだけは困ります。これがないと帰国できません。ネットで調べてみると、アメリカ国内にある総領事館に出向いて再発行してもらわなければいけません。ダラスから最も近い総領事館は在ヒューストン日本国総領事館。ダラスから約400キロ離れています。ずいぶん距離がありますが、これでもまだ近い方です。アメリカ本土の日本国総領事館は全部で13箇所。各州に1箇所ずつあるわけではないので、運が悪ければ州を超える移動が必要です。

発行してもらえるパスポートは2種類。持っていたのと同等のパスポートと、帰国専用のパスポートです。前者は6日間ぐらい、後者は2日間ぐらい発行に時間がかかるとHPにありました。もちろん帰国専用で十分ですが、それにしても2日間かかるので、明日(4/8)の皆既日食を待たずにヒューストンへ移動しないと帰りの便に間に合いません。あるいは帰りの便をキャンセルして別便で帰国するか。この場合飛行機代がまったく戻ってきません。気持ちは半分皆既日食を諦める方向に行きかけましたが、ここで引き戻してくれたのはAでした。「せっかくここまで来たんだからもう少し粘ろうよ。少なくともヒューストンまでは付き合うから」と。

またAは現金で$500貸してくれました。クレジットカードも無いので、現金が無いとパン一つ買うことができません。

気を取り直して在ヒューストン日本国総領事館に直接電話して確認したところ、必要書類がそろっていれば1日で再発行可能とのこと。戸籍謄本とかマイナカードの写しは日本にいる家族に頼んでLINEで送ってもらい、その都度総領事館にメールで送りました。皆既日食翌日の9日早朝便でヒューストンに移動すれば朝イチで総領事館に入ることができ、その日のうちに帰国専用パスポートを手に入れることができそうです。光が見えてきました。

やはり怪しいモーテル

諸々の段取りを済ませたころに日が暮れ、歩いていける距離のレストランでAと夕飯を済ませました。いろんなことがぎゅっと詰まった怒涛の一日でした。部屋に戻って今日あった出来事を思い返すと、このモーテルがいかに危険であるかに気づきます。敷地内はいうに及ばず、各フロアは誰でも入れます。実際モーテル内ですれ違う人の半分は「近所の人?あるいは住人?」と思われる風体です。HPの案内には「ペット連れの宿泊お断り」とありましたが、ペット連れを何回も見ました。フロントにはいつ行っても正体不明の人が床に座り込んでぼおっとしていました。もちろんセキュリティカメラはありません。悪い人にとってはやりたい放題の環境です。

窃盗犯について

勝手な推測ですが、窃盗犯はここに頻繁に出入りする人間、もっといえば同じフロアの『住人』で、扉の立て付けが悪いことを熟知していて、オートロックが不完全になる機会を見計らっていたと思われます。しかも犯人は複数で、見張りをつけていたのではないでしょうか。つまり極めて計画的な常習犯というわけです。さらにいえばモーテルだってグルの可能性があります。従業員はどの部屋も開けられるカードキーを持っているので、出入りは自由です。私の落ち度は外出時、パスポートの入ったカバンを持ち出さなかったこと。これさえ心がけていれば最悪の事態を招くことはありませんでした。今となっては悔やんでも悔やみきれません。

建付けの悪いオートロックドア

また考えようによっては「窃盗」で済んでよかったです。万が一現場に出くわしたら殺されていたかもしれません。そう思うとぞっとします。この晩はあれこれいろんなことが頭に浮かびなかなか眠れませんでした。深夜になっても部屋の前を通る人の気配が絶えず、駐車場からも話し声が聞こえます。ついでに言えば部屋の中で小さいゴキブリが出ました。どんどん気持ちが萎えていきます。予定ではここでもう一泊するつもりですがとても耐えられそうにありません。

そして皆既日食当日!

ほとんど眠れないまま夜が明け、朝になってAが私の部屋に来てくれました。「このモーテルを引き払って今日のうちにダラス市内中心部のホテルへ移動しないか?」と切り出すと「実は俺もそう思っていた」と意見が一致。第3接触が終わったら早々に撤収してこのモーテルを出ることに決めました。

お昼前、外を見るとそこそこ雲はあるものの、ある程度期待できそうな空。第1接触は12時過ぎなので、その前に腹ごしらえをしておこうと、一日目の夕飯を食べたタコスの店に出かけることにしました。するとモーテル敷地内の芝生エリアに望遠鏡を設置している20名ぐらいの中華系の団体を発見。話しかけてみると台湾から来たとのこと、昨晩駐車場で見かけた大型バスでこのモーテルに来たようです。お願いして一緒に観望させてもらうことにしました。

モーテルの敷地内で日食観望

実は盗まれたものとまったく同じ構成の機材をAに渡してありました。貴重な皆既時間を無駄にしないようそれぞれの機材で観望に専念しようという狙いです。しかしこういう状況になってしまったので、1台の機材をふたりでシェアしながら見ることにしました。

芝生に設置した日食観望機材

12:23、いよいよ第1接触です。タイムキーパーはスマホアプリの’ECLIPSE 2.0’を使いました。

ECLIPSE 2.0の起動画面

雲は多めですがときどき太陽が顔を出し、その都度ソーラーフィルターを付けた望遠鏡で欠けていく様を観望しました。第1接触から皆既が始まる第2接触まで1時間17分ありましたが、時間の進みは意外と速く、あっという間に第2接触の時刻が近づいてきました。食分が90%を超えると周りははっきりと暗くなり、まるで日没後の光の加減です。そして日没を早回しで見ているようにどんどん暗くなっていきます。何というワクワク感!

スマホによるコリメート撮影

そして第2接触!

13:40:57、ついに皆既が始まりました。とてもラッキーなことに、皆既中の太陽が雲と雲の大きな切れ目に入りました。ダイヤモンドリングがばっちり見えました。フィルターを外した望遠鏡で見るとコロナの流線がよく分かります。コロナがこんなに明るいとは知りませんでした。写真では味わえないコロナの輝きです。月の影からはみ出た真紅のプロミネンスがいくつも見えました。肉眼で見ても、天空に浮かんだ黒い穴から全周に渡って光が溢れ出し、神々しいまでの光景です。はじめての日食観測でいきなり観測成功!なんという幸運!昨日の嫌な出来事を差っ引いても来てよかったと思いました。

あっという間の4分間でした。13:44:58、数秒間ダイヤモンドリングを我々に見せて太陽は再び本来の光を取り戻し始めました。思わず拍手をすると、同じように拍手をする台湾の人たちが何人もいました。

このまま第4接触まで見届けて余韻を楽しみたいところですが、そんな余裕はありません。部屋に戻って出発の準備にかかりました。

まずはダラス空港へ

来たときと同じようにダラス空港へ戻るときもタクシーを使いました。タクシーを呼んでからモーテルに迎えに来るまで小一時間待たされました。空港に着くとすでにチケットカウンターは多くの客でごった返していました。

ここでひとつ心配なことがありました。明日早朝出発するヒューストン行きの飛行機チケットを買うつもりでここへ来ましたが、総領事館の方から「アメリカ国内線といえどもパスポートがないと乗れないかもしれない」と言われていました。

そしてその心配は現実のものとなりました。長い列を我慢してチケットカウンターまでたどり着いて空港職員にこの点を確認すると、「私ではわからない」と言ってTSA(Transportation Security Administration アメリカ運輸保安局)の担当者を呼んでくれました。この人たちがOKといえば飛行機に乗れるし、NOだったら乗れないことになる空港関所の番人です。このTSAの担当者も”Mmmmm”と言って難しい顔になり、審査には最低でも2時間かかる、その結果搭乗を拒絶する場合もあるとのことでした。

飛行機に乗れさえすればヒューストンまで1時間ぐらいなので、早朝のフライトでヒューストン入りすれば朝イチで総領事館に行けます。これが予定の飛行機で帰国するためのシナリオです。しかし今から審査を受け、しかも乗れないとなると、その予定はかなり危ういものになります。

あらためてGoogleマップで確認すると、ダラスからヒューストンまで車で4時間と出ました。それなりの距離ですがこれが最も確実な方法です。運転リスクはありますが、Aも私も一応海外免許を持ってきているので車の運転は可能です。私の海外免許は別の荷物と一緒にしてあったので奇跡的に無事でした。「4時間なら頑張れば行けるかなぁ」とAと相談して車で行く覚悟を決めました。

レンタカーでヒューストンへ

なんだかんだでいろいろな手続きにずいぶん時間がかかり、レンタカーでダラス空港を出たのは夜の8時頃でした。Aは20年ほど前、仕事の関係でアメリカに2年間いたので一応右側通行、左ハンドルの経験があります。ずいぶんブランクはありますが、ド素人の私よりはましなので、まずはAの運転でフリーウェイに入りました。

私も途中替わって運転をしてみて分かったのですが、慣れない左ハンドルでレーンの真ん中を走るのはとても難しいです。右ハンドルの感覚でレーンの真ん中をキープしようとすると、実際にはずいぶん右に寄っていて、Aも私も、気がついたら右側の白線を踏んでいました。しかも雨で路面が濡れていてレーンが見づらく、かなり怖い思いをしてなんとかヒューストンにたどり着きました。時刻はすでに夜中の1時を回っていました。

先に総領事館のあるビルの位置を確認し、それから宿泊先を探すことにしました。このエリアにはホテルがたくさんあり、一軒目は「満室」と断られましたが、二軒目のホテルでダブルの部屋を確保することができました。

ヒューストンで一泊したホテル。天文ファンにとっては意味深な名前

フロアには宿泊客しか立ち入れず、オートロックもスムーズに閉まる、当たり前のことに感激しつつ、短い時間ながらも久しぶりによく眠れました。

在ヒューストン日本国総領事館

総領事館が開くのは朝の9時半。それまでに証明写真を用意しなければいけません。少し早めに私だけチェックアウトして、Googleマップで探した証明写真を撮ってくれるショップに向かいました。ここは日本のような無人のボックスではなく、店員が撮影するスタイルでした。

総領事館は商業ビルの30階にありました。それほど大きくありません。入口に空港の保安のような荷物検査と金属探知ゲートがありましたが、それ以外は日本によくある「小さい役所の窓口」といった感じです。いずれにしてもパスポートを盗られるようなトラブルがなければ縁のない場所です。

前もって来訪は伝えてあったので、名前を告げるとすぐに職員の方が親切に対応してくれました。ここでしか書けない書類を2枚、時間をかけて記入してから提出すると「これですべての書類が揃いました。午後3時頃帰国専用パスポートを渡しますから、その時間になったらまた来てください」とのことでした。「ついに帰れる!」ここまでの緊張が一気に解ける瞬間でした。

11時頃、ホテルで寝ているAに連絡を取り、再びAと合流。「アメリカでまともな食事ができるのはたぶんこれが最後。豪勢に行こか」と、ヒューストン市内にあるBenihana(ベニハナ)というアメリカでは有名なステーキハウスに行きました。

ラテン系の女性が愛嬌たっぷりに肉や野菜を焼いてくれました

その後3時まで商業ビル内のスタバで時間を潰し、再び30階の総領事館を訪れてついに帰国専用パスポートを受け取ることができました!ヒューストンまで来た努力が実りました。

これが帰国専用パスポート

帰国便のフライトは明朝6時出発。それまでにダラスに戻ればよいので楽勝です。それでも万が一のことを考えて、この日のうちにダラスに戻ることにしました。

帰路はまだ明るく、雨も上がっていたので来るときよりも運転がずいぶん楽でした。レーンキープもずいぶん慣れてきました。当然ながら周りの車もほとんどがアメ車。やんちゃな人に囲まれているような錯覚を覚えながらの運転でした。

途中給油もしました。ここで少しハプニング。給油口の開け方が分かりません。Aと二人で15分ほど運転席周りをくまなく探しましたが、それらしいレバーが見つかりません。ダメ元でガソリンスタンドの店員にも聞きましたがやはり分からず。もしやと思ってGoogleで「シボレー 給油口」と検索したら「レバーはない、直接開ける」とありました。「えっ?」と思って給油口の端を押したらあっさり開きました。いたずらされたらどうするんだろうと思う仕様でしたが、とりあえず開いてよかったです。

借りたクルマはシボレー

そんなこんなんで夜の10時近くにダラス空港へ無事到着。レンタカーを返して空港ロビーに入りました。もう大丈夫。あとは飛行機に乗るだけです。空港ロビーの空いている席で仮眠しながら夜を明かしました。

ついに帰宅!

4/10早朝6時、ダラス空港を帰国便が離陸。ロサンゼルス、羽田を経由して4/11の21時頃中部国際空港に着きました。本来ならここに止めてある車で帰るところですが、今回車のキーも盗られているので電車で帰宅しました(車は翌日電車で中部国際空港まで取りに行きました)。荷物の軽さが虚しかったです。

ロサンゼルス空港にて

この数日を振り返ると、よくぞ無事予定通り帰ってこられたものです。すべてが紙一重でした。
もしも殺されていたら、
もしもAがいなかったら(実際その可能性はありました)、
もしも日本に家族や知人がいなかったら、
もしもスマホまで盗られていたら、
もしも総領事館がとてつもなく遠かったら、
もしもヒューストン往復で事故っていたら、
もしもダラス観光日を設けてなかったら(その日をダラス往復に充てました)、、、
今だ帰国できずにいたかもしれません。最悪の事態が発生したにも関わらずその後はツイてました。またヒューストン往復まで付き合ってくれてAには感謝のことばしかありません。

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。日食の話よりパスポートを盗られた話がほとんどで申し訳ありません。パスポートを盗られるとどんなに大変か、今回のことでよく分かりました。そのことでAをはじめ、多くの人に迷惑をかけてしまいました。本当に申し訳なく思っています。

この話は武勇伝でもなんでも無く、治安の良い日本と同じ感覚で外国に出かけるとどういう目に合うかという見本のような話です。

「次回外国へ行くときは気をつけます」と言いたいところですが、当分(あるいは一生)外国へ行く気になれません。平和ボケしている私にとって滞在中ずっと気を張ることは強いストレスになるからです。

幸い1回目にして皆既日食を見ることができました。一昨年はオーストラリアで星も見ました。今回が最後の海外ツアーとなっても悔いはありません。

オーストラリアで星を見てきました

10/19-26の日程で、笠井トレーディング代表・笠井氏とユーシートレード店長・大野氏に帯同してもらって、オーストラリアへ星見に行ってきました。図らずも同業者の懇親会ツアーです。

オーストラリア、ニュージーランドの星空の素晴らしさはかねてから聞き及んでいましたが、サラリーマン時代はなかなか休みが取れず、ずっと行かずじまいでした。コロナも概ね収束し、やっと行ける環境になったので、憧れの地に足を踏み入れることにしました。

滞在したのはニューサウスウェルズ州のクーナバラブランという、シドニーから内陸部に500キロほど入った小さな町です。この街から車で30分ほどの場所に、オーストラリア最大口径3.9mが主砲のサイディング・スプリング天文台があります。

羽田空港-(ANA)-シドニー空港-(カンタス航空)-タムワース空港-(レンタカー)-クーナバラブランというルートで現地入りしました。

タムワースはカントリーミュージックの聖地だそうです。
レンタカーで移動中に見たのどかな風景
クーナバラブランの中心にあるラウンドアバウト

現地での宿泊は5泊。つまり5晩星を見るチャンスがあったのですが、あいにく初日からの3晩は曇り時々雨の悪天候でほとんど星が見えず。何回も来ている笠井氏によると、これだけ天気が悪いのは珍しいとのこと。そもそも乾きすぎて森林火災が発生するお土地柄。それなのにこの悪天候。南隣のヴィクトリア州に至っては、記録的な豪雨で大洪水が発生していました。はっきり言って、かなり運が悪いです。

それでも4晩目、ついに夕方から0時頃まで晴れました。西の地平線に平行して横たわる天の川が印象的です。北半球ではありえない構図です。

コンデジカメラで30秒露出の固定撮影

薄明が終わる前から、大マゼラン雲、小マゼラン雲もよく見えました。

写真上の輝星はアケルナル、左端はカノープス

現地での観望は40cmドブソニアンを使いました。これぐらいの口径があると、10等級の銀河も迫力があります。5晩目も夕方から23時頃まで晴れました。観望できた天体は以下のとおりです(北半球から見える天体も少し見ました)。

星座天体等級種類
くじゃくNGC67525.4球状
くじゃくNGC687610.9銀河
きょしちょうNGC1044.0球状
きょしちょうNGC3626.4球状
きょしちょう小マゼラン雲2.7銀河
かじき大マゼラン雲0.8銀河
かじきタランチュラ星雲5.0散光
かじきNGC1546, 1549, 15539.3-11.1銀河
かじきNGC15669.6銀河
かじきNGC16729.7銀河
レチクルNGC155910.4銀河
とけいNGC12618.3球状
つるNGC7552, 7582, 7590, 7599
(つる座カルテット)
10.5-11.4銀河
NGC13168.6銀河
NGC1365他(ろ座銀河団)9.4-12.0銀河
さそりM6, M7
いてM8, M20, M22, M16, M17
たてM11
みずがめNGC7293
うおM74
くじらM77
オリオンM42
ちょうこくしつNGC253

圧巻だったのは、小マゼラン雲の近くにあるNGC104という球状星団でした。180倍で見ると、視野いっぱいに星が広がっています。しかもその立体感が球ではなく、富士山を真上から見た感じ(尖った円錐状)です。M13とは異なるど迫力でした。

一方、大マゼラン雲も望遠鏡で見るとすさまじい光景です。端っこにあるタランチュラ星雲は別格として、それ以外にも、ここになければそれぞれニックネームが付けられるレベルの明るい散光星雲がとっ散らかっています。UHCフィルターを使うとさらにその様が際立ちます。

この他にも「ろ座銀河団」、「つる座カルテット」が印象的でした。

ちなみに今回の観望対象は、小雲夕著「DSO観望ガイドブック南天編」を参考にしました。

0時以降もはれていたら、りゅうこつ座が昇ってきてエータ・カリーナが見えたはずです。これは心残りでした。

観望はこんな感じでしたが、少しだけ観光もしました。近くにあるサイディング・スプリング天文台です。

主砲の3.9m鏡

食事は近所のレストランへ行ったり、スーパーで買ってきたものを食べたりしました。当たり外れもありましたが、大当たりはTボーンステーキでした。

付け合せの温野菜とマッシュポテトも絶品

恥ずかしながら知らなかったのですが、Tボーンステーキの半分はサーロイン(写真右側)で、もう半分がヒレです。どちらも美味でした。これで30豪ドル(日本円で2900円ぐらい)。仮に日本で食べるとこの3倍ぐらいの値段だそうです。ホテルから車で40分ほどかかるお店でしたが、あまりに美味しかったので、滞在中2回行きました。

そして滞在最終日、ハプニングがありました。

ヴィクトリア州に大雨をもたらした雨雲は、私たちがいたニューサウスウェルズ州にも影響を及ぼし、ホテルからタムワース空港へ戻る途中のハイウェイが、洪水で通行止めになってしまいました。数十キロの迂回を余儀なくされましたが、その迂回路にも途中冠水箇所がありました。

深さが分からないので、渡るべきかどうか躊躇していたら、向こうからためらいもなく渡ってきた車があり、深さが分かったので無事通過することができました。ここが通過できなかったら、百キロ以上の迂回になったはずです。オーストラリアは道が少ないので、ちょっとしたことでとんでもない迂回が発生します。ホテルを早めに出て正解でした。

こんな感じでいろいろありましたが、無事帰国できました。羽田に到着したのは朝の5時台。6時台の品川発新幹線のぞみはがらがらでした。途中車窓から見た富士山の勇姿で帰国したことを実感しました。

遠いのとお金がかかるのでオーストラリアはそう頻繁に行けない場所ですが、少なくとももう一度は行って、エータ・カリーナ星雲を見てみたいです。

小笠原の天の川

先日ブログで紹介した小笠原ツアーの続報です。ウェザーステーション展望台で星を見ているときに出会った方から素敵な天の川の写真をいただいたので紹介させていただきます。

ウェザーステーション展望台のテラスから撮影

流れる雲がオレンジ色(肉眼ではただの白い雲)に写っているのは、港の光(ナトリウム光?)の影響と思われます。

ウェザーステーション展望台横の駐車場から四阿(あずまや)を見上げたアングル

じっと見ていると、あのときの興奮が蘇ってきます。

小笠原で星を見てきました -8(最終回):またいつか

島内の施設も回ったのでいくつか紹介しておきます。

まずは泊まったペンションのすぐ裏手にあった小笠原世界遺産センター。2011年に世界遺産登録されたことを記念して2016年に建てられた施設です。

小笠原世界遺産センター入り口

そしてこちらはおが丸停泊港のすぐそばにある小笠原ビジターセンター。展示内容は先述の小笠原世界遺産センターと重複している部分もありますが、こちらの方が充実かつ網羅されているように感じました。

小笠原ビジターセンター入り口
小笠原ビジターセンターすぐ横のビーチ

小笠原ビジターセンターから車で5分もかからない場所にあるのが小笠原水産センター。ここは小さな水族館です。海に潜ったときは見つけられなかったのですが、ダイバーに人気のあるユウゼンという魚もいました。

小笠原水産センターの敷地内

そしてこちらは小笠原海洋センターです。小笠原海洋センターから車でさらに5分ぐらいです。海洋生物、特にウミガメの研究と展示を行っています。

小笠原海洋センター入り口
小笠原海洋センターすぐ横の海岸

次に買物情報です。父島にコンビニはありません。島内で一番大きいスーパーは下の写真の生協です。店内はスーパーとドラッグストアとホームセンターがミックスされた感じの品揃えです。おが丸入港日は商品が入荷する日でもあるので、その日の夕方店内に入ったらレジに長蛇の列ができていました。並んでいたのは島内の宿泊業の方たちと思われます。

その向かいにももう1軒スーパーがあります。どちらもおが丸停泊港のすぐ横を通る湾岸通りに面しています。そんなに遅くまでやっていません。

それでは困るという人たち御用達のお店もあります。湾岸通りから少し路地に入ったところにある佐藤商店は夜10時まで営業しているそうです。ツアーガイドさんによると、夜おつまみを買い足したいときに重宝するそうです。

この写真を撮ったのは夜中の1時過ぎ。さすがに閉店していました。

食べ物の名物はそれほど多くありませんが、島寿司はいくつかのお店で看板を見かけました。これはサワラの醤油漬け(いわゆるヅケ)を使ったお寿司です。泊まったペンションでも一度夕飯で出ました。さっぱりした味で食べやすいお寿司でした。

中央のオレンジ色の6貫が島寿司。その右のマグロの刺身も美味でした。

それ以外にはハートロックカフェというお店でカメの肉を使った亀煮丼も食べました。カメのいろんな部位が入っているようで見た目が少しグロいのですが、塩ダレのようなもので味付けされていて臭みもなく美味でした。

ハートロックカフェの亀煮丼

この丼を食べ終わったのが最終日(おが丸に乗って帰る日)の午後1時頃でした。出航までまだ2時間ほどありますが、この時間になると湾岸通り沿いの飲食店は一斉に閉店します。もたもたしていると食べそびれるので注意が必要です。

さて、いよいよ帰るときが迫ってきました。

船に乗り込み右舷側のデッキに出ると、岸壁では地元の人たちによる見送りのセレモニーが行われています。宿の従業員さんやツアーガイドさんと思われる人たちが大勢集まって船に手を降ってくれました。

岸壁では見送り太鼓が叩かれていました

小笠原では見送りのことばは「さようなら」ではなく、「また来てね」の気持ちを込めて「いってらっしゃい」だそうです。実際小笠原に来る観光客の半分以上はリピーターさんと言われています。その気持はよくわかります。

午後3時、出航を告げる銅鑼の音が響いていよいよおが丸が桟橋から離岸します。

桟橋付近ですらこの海の色!

見送りのパフォーマンスはこれで終わりではありません。出航したおが丸の右側を、父島のツアーに使っているボートが10隻以上並走し、乗っている人たちがこちらに手を降ってくれます。最後は順次ボートを止め、一斉のせいで海に飛び込んで、見送りの気持ちを私たちに伝えてくれました。おが丸に乗っている私たちも手を降ってこれに応えました。

一斉に海に飛び込む瞬間

並走していたボートからの飛び込みセレモニーが一通り終わると、最後尾にいた海上保安庁の高速ボートがすべてのボートを一気に追い越してからUターン。見送りのセレモニーがすべて終わったことを無言のうちに伝えていました。

高揚感と喪失感を抱きながら船室に戻り、しばしベッドでゴロゴロ。その後日没を見に屋外デッキに出ましたが、グリーンフラッシュは見えませんでした。

22時前、再び屋外デッキに出ました。22時を過ぎると出られなくなるのでその前に夜空の見納めです。そこそこ晴れていて、さそり座、いて座、夏の大三角、そしてうっすらと天の川が見えていました。帰りは船尾側が南になるのでこの景色が見られます。

そして爆睡。かろうじて日の出前に目が覚めて屋外デッキへ出るも空は雲だらけ。グリーンフラッシュは早々に諦めて再びベッドへ。行きに見えたことはやはり超ラッキーと言う他ありません。

昼過ぎ、おが丸は房総半島沖を通過。海の色がどんどんどす黒くなってきました。スマホの電波も受信可能になってゆっくりと現実の世界に戻っていきます。

15時。予定通り竹芝客船ターミナルに到着。船を降りてJR山手線に乗ると、周りは平日の日常風景。濃密な6日間の旅が終わったことを実感しました。

最後に旅の費用ですが、海のアクティビティ代も含めてざっと20万円といったところです(船室のランクを落とせばさらに節約可能)。国内旅行としては高いかもしれませんが、海外旅行と思えばそれほどでもありません。

同様に、6日間という日数も国内旅行としては長いのですが、海外旅行と思えば普通です。むしろ日本語が通じて治安がよく、ビザもパスポートも要らない海外旅行と思えばお値打ちです。

長くなりましたが以上で小笠原ツアーのブログは終了です。帰ってくると何かを語らずにはいられない魅力が、小笠原には満ち溢れていました。いつかまた機会をみつけて行ってみたいと強く願っています。みなさんもぜひどうぞ。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

小笠原で星を見てきました -7:海のアクティビティ

小笠原を訪れる観光客のお目当ては9割以上海のアクティビティです。スキューバダイビング、スノーケリング、シーカヤック、ウェイクボード、釣り、などなど。ただしサーフィンは見かけませんでした。ビーチの波がそれほど高くないのと、海底のほとんどがサンゴ礁なので向かないのだと思います。

今回のツアーでは欲張って、私もスノーケリングとスキューバダイビングに挑戦しました(どちらも初体験!)。

スノーケリングレッスン(到着1日目午後)

海に入るのはおよそ35年ぶりです。

父島ではスノーケリングやスキューバのツアーがたくさんあります。ただしほとんどが経験者向けです。あるツアーに問い合わせたときは「45歳以上の未経験者はちょっと、、、」という回答でした。惜しくも何ともない年齢制限です(笑)。それでも探したら見つかったのは、小笠原エコツーリズムリゾート(TAKE NATURE ACADEMY)のツアーでした。体力や経験に応じていくつかのメニューが用意されています。まず最初に参加したのが、父島到着日の午後のみ開催のスノーケリングレッスンでした。

スノーケリング3点セット(スノーケル、ゴーグル、フィン)やウェットスーツは事前に予約しておけば貸してくれます(有料)。ゴーグルは度付きのものを借りました。

レッスンではゴーグルの正しい付け方、ゴーグルに水が入ったときの出し方、スノーケルに水が入ったときの出し方、フィン(足ひれ)を付けての泳ぎ方などを学びます。

ウェットスーツは浮力があるので溺れる心配はありません。若いときに平泳ぎができる程度だったのですが(25メートルレベル)、フィンを付けて学んだ通りに足を動かすとあら不思議、ちゃんと前に進みます。岸から20メートルほど離れるとすでに足がつかない深さ。身体をうつ伏せの水平に保ってゴーグル越しに海の底を見るとサンゴ礁が見えます。ちょっと感動しました。

スノーケリングレッスンを受けた宮之浜。遠くに見える山は父島の北にある無人島の兄島。

さらに沖の海面でチャプチャプ30分ほど遊んでいたらガイドさんから「そろそろ岸に上がりますね」の声。そのときになって両足がつり気味になってきました。ふだん運動らしい運動をしていないので、ちょっとの負荷でこんなはめに陥ります。ウェットスーツがあるので溺れる心配はありませんが「服部さん、大丈夫ですか?」の呼びかけに「足がつりました」と正直に応えたら、2人の若い女性ガイドが私の両脇を抱えて岸まで連れて行ってくれました。情けない気持ちを抱えつつスノーケリングレッスン終了です。

南島上陸(2日目午前&午後)

同じくの小笠原エコツーリズムリゾート(TAKE NATURE ACADEMY)の南島上陸ツアーに参加しました。

南島は父島の南西にある小さな無人島です。島全体が天然記念物に指定され、一日の上陸者数は100人以下、滞在時間は2時間以内に制限されています。

朝8時半、おが丸が停泊する港の近くに集合。参加者は20名程度。2隻のボートに分乗してさっそく南島に向かいます。時間にして20分ぐらい。南島の近くに来るとかなり波が高くなってきました。「場合によっては上陸できないこともあります」というガイドさんの説明もありましたが、波が少し収まったタイミングを見計らって南島の南側の入江にボートは突入。入江に入ると別世界のような穏やかな海に変わりました。参加者全員思わず拍手。

金属製の階段が取り付けられた岩場に接岸し、いよいよ南島に上陸です。島内の歩行ルートは決められていて、そこから外れての立ち入りはできません。まずは島内の最高点(60m)を目指して登ります。尖った岩が多いので、鼻緒だけのビーチサンダルは論外。簡単に脱げない靴が必須です。

上陸後の南島の入江の景色。海の透明度はこの世のものとも思えないほどでした。

最高点にたどり着くと360度のパノラマが広がります。海の青さが濃いです。

南島から南東方向の景色。左端の島影は父島。

目線を下に向けると、南島の人気スポットの扇浜が見えます。

最高点から写した扇浜

その扇浜に降りて30分ほど散策しました。

扇浜で見かけたカニさん

あっという間に滞在時間終了。再びボートに乗り込んで父島方面へ。途中イルカの群れを発見したのでボートは接近します。このイルカがミナミハンドウイルカなら人間と一緒に泳いでくれることもあるそうですが、ガイドさんによると、背びれの形からこれはハシナガイルカ。残念ながら一緒には泳いでくれない種類だそうです。

それでもここにボートを止めてスノーケリングタイム。昨日のレッスンが生きました。海の底を見ると、深いところをイルカの群れが通過していくのが分かりました。ちなみにこの日着たのはウェットスーツではなくスノーケルベスト(レンタル)。ライフジャケットほどの浮力はありませんが、これを着ていれば、ウェットスーツ同様、溺れることがありません。

その後計4箇所場所を変えながらスノーケリングタイム。足がつることもなく、海面から海中の景色を楽しみました。どの場所も海底はサンゴ礁、いろいろな色の熱帯魚が普通に泳いでいました。

最も魚影が濃かったスノーケリングスポット

夕方4時前に帰港してツアー終了です。

スキューバダイビング(3日目午後)

今度は酸素ボンベを背負って海に潜るスキューバダイビングです。私のようなど素人でも受け入れてくれるツアーを催行しているのはST TOUR(エス・ティー・ツアー)さんです。

昨日と同じ港からボートに乗って15分ほどのスポットに到着。さっそくガイドさんが丁寧に機材の説明をしてくれました。さすがにスキューバダイビングの機材はスノーケリングより複雑で重いです。船上で酸素ボンベを背負うと立ち上がるのもたいへんです。

ところがガイドさんの指示に従って船尾の階段伝いに海に入ると途端に軽くなります。そこからいきなり泳ぐのは無理なので、船から垂らされたロープ伝いに、慎重に海底に向かって降りていきます。途中水圧で耳が痛くなるので、その都度少し上がって耳抜きを行いました。

何とか海底に到着。ガイドさんの指示に従ってサンゴの隙間にある砂地に膝をつき、そばにあるサンゴを両手でつかんで身体を固定しました。つかんだらサンゴがもげるのではと心配しましたが、意外にしっかりしています。水中でも使える筆談ボードでガイドさんが「おがさわらのうみにようこそ」と歓迎メッセージをくれました。続けてこのときの水深が7.3メートルであることも教えてくれました。

落ち着いてまわりを見渡すと、いろいろな種類の熱帯魚が人間のことなどまったく気にせず優雅に泳いでいます。目の前に立ち止まった黄色の魚は胸びれをはためかせながらしばらく目を動かしてキョロキョロし、その後またどこかに行ってしまいました。少し離れたところにはタコもいました。まるで熱帯魚の水槽にいる気分です。

しばらくして浮上。体感20分ぐらいかと思ったら、40分ほど潜っていたそうです。1時間ほど休憩して再度潜水。1回目よりは落ち着いて潜れました。この体験は一生物です。

ガイドの武田さん。この笑顔が緊張を解してくれました。

1時間の休憩の間、ガイドの武田さんが小笠原についていろいろな話をしてくれました。

小笠原で武田さんのようなガイドをしている人の8割、9割はよそから来た人だそうです。実際武田さんも関東出身で、オーストラリア、フィジーで海のツアーガイドをしたあと、小笠原に来たそうです。

島内には「空港建設を」という垂れ幕もありましたが、島民はそれほど歓迎しているわけでもなく、そんなお金があるならおが丸をもう1隻作って欲しいという要望もあるそうです。父島にはもともと長い滑走路の空港を作るほどの平地がなく、海を埋め立てて作ったとしてもせいぜい80人乗りの飛行機しか離着陸できないからです。たしかに経済効果の観点で見れば、800人乗りのおが丸の方がメリットがありそうです。

また父島はとても治安がいいそうです(実際そう感じました)。そもそも自然いっぱいのこの素敵な土地で悪いことをしようという気など起こさないでしょうし、逃げる手段もおが丸しか無いので簡単に捕まります。なので大きな犯罪は聞いたことがないそうです。

一刻を争う急病の場合は、硫黄島に駐留する自衛隊のヘリが飛んできて一旦硫黄島に移送され、そこから自衛隊のジェット機で(本州の)東京に運ばれるそうです。ただしよほどのことがない限りこの手段は認められないそうです。

こんな話が聞けたことも貴重な体験となりました。

以上が私の体験した海のアクティビティです。これらのツアーはすべて事前予約が必要です。参加される方はあらかじめ目星をつけておいて、おが丸乗船が確定したらすぐに予約を入れておくことをお勧めします。

小笠原で星を見てきました -6:父島で見る天の川

さて観望場所も決まっていよいよ星見です。このブログの-1に書いた通り、チャンスは3晩しかありません。しかも夏至直後で極端に夜が短い時期です。薄明を避けると夜の9時から明け方3時が勝負です。

意気込んで臨んだ1晩目はあいにくの曇りでした。それでも薄明が残っている20時頃、宿の外に出てみると、東の方に少し晴れ間が見えました。街灯があるにも関わらず、ザラッとした濃い天の川がはくちょう座を貫いていました。いやが上にも期待が高まります。しかし願いも虚しくまもなく全曇り。そのうち雨も降り出してこの夜は早々に諦めました。明け方にはすごい雨音のスコールもあったので、望遠鏡を出さなくてよかったです。

気を取り直して2晩目。20時頃スコールがありましたが30分ほどで止み、そのあと晴れ間が広がってきました。いよいよ出動です。レンタカーに双眼望遠鏡一式を積み込んでウェザーステーション展望台に向かいました。

そこで見た天の川は想像をはるかに超えていました。天の川の明るい部分と暗い部分の輝度差がすごいです。特にいて座の南斗六星の少し下あたりの濃い部分は、輝くように明るいです。一方そこから西側に、暗黒帯を挟んで広がる天の川は、淡いながらもしっかり見えています。写真では見たことがありますが、肉眼でここまで見えるとは思いませんでした。ひっきりなしに雲が流れてくる空でしたが、この天の川がわし座、はくちょう座と流れていくさまは壮観です。

松尾芭蕉が奥の細道の序文で「松島の月まず心のかかりて」と書いていますが、同じように私も小笠原行きを考え始めたときから「小笠原の天の川まず心にかかりて」でした。24時間かけてここまで来た苦労がすべて報われた気持ちです。

下の写真は現地で固定撮影した写真を、現地で見たイメージに合わせて画像処理したものです。淡い部分に切れ込む暗黒帯もこんな感じです。ふだん撮らない人の拙い写真で恐縮ですが、少しでもイメージが伝わればと思います。

左上隅の白い影とさそり座下あたりの黒い影は雲

天の川以外にも目を引くものはあります。例えばさそり座の高さです。さすが北緯27度(沖縄と同じぐらい)、位置が異様に高いです。天の川が直立する夜半すぎ、さそりはほぼ水平に横たわりますが、それでも全景が見えています。南国に来たことを実感しました。

ただしこの夜は直前のスコールのせいで湿気がひどく、望遠鏡はあっという間に曇ってしまいました。したがってもっぱら肉眼と手持ち双眼鏡(42mm)での観望でした。

そして3晩目。天の川が凄いのは分かったので、この日は何としてでも望遠鏡で星を見たいものです。そしてその望みは叶いました。

この日はスコールもなく、多少雲があるものの、空もまずます。21時過ぎにウェザーステーション展望台へ出動しました。

はじめは32倍(アイピースはナグラータイプ4・22mm)でメジャーな天体を観望。天の川にかかる天体のまわりはものすごい星の数です。

次に71倍(アイピースはデロス10mm)に切り替えると各天体がクローズアップされて迫力が増します。10cm双眼望遠鏡を持ってきてよかったです。

0時頃、天の川の写真を撮りにウェザーステーション展望台へ来られた方がいたので、声をかけてM11を見てもらいました。しばらくご覧になったあと覗いたまま「すみません、ちょっと望遠鏡の先を手で塞いでもらえますか?」というリクエストがありました。「いいですけど何かありました?」と逆質問したところ、「いや、疑ってるわけじゃありませんが、リアルに見えていることを実感したくて」とのことでした。まるで映像が嵌めてあるような錯覚に陥ったそうです(笑)

電子ファインダーのアストロイドは、32倍なら視野内に導入できました。71倍では当たらずとも遠からずという感じです。供給者の話では「80倍でも大丈夫」とのことだったので、使い方に問題があったのかもしれません。視野を多少ずらすとだいたいお目当ての天体が入ってくるので、私としてはこれで十分です。プレートソルビングによるタイムラグがあるので、少し慣れが必要です。

夜半過ぎ、東の空に木星が昇ってきました。土星と併せて71倍で見たところ、ひと目でわかる好シーイング。このシーイングが小笠原の「普通」なのかもしれません。高倍率の出せるアイピースを持ってこなかったことが少し悔やまれます。

基本的に小笠原のような離島の場合、湿度は常に高いと考えてよさそうです。実際、ブログの-3で紹介した父島の月別降水量の推移を見ても、年間を通じて湿度はほぼ70%以上です。この晩、スコールこそありませんでしたが、撤収するころには鏡筒が夜露で濡れていました。

結局この日もウェザーステーション展望台に望遠鏡を持ち出しているのは私だけでした。これだけの空とロケーション、そして夏の天の川の最も見頃な時期なので、もったいないなと思いました。

そして1時過ぎに撤収。本当は3時頃まで見ていたかったのですが、この日はもう帰る日。同じ船に載せるため、朝までに望遠鏡等を梱包して宅配を依頼しなければなりません。「またこの星空を見に来ることができるだろうか」と少し感傷的な気持ちになりながらも、宿に戻って寝ずに望遠鏡の梱包を開始しました。どうせこの日は15時におが丸に乗船して24時間の「休憩時間」が与えられるので、頑張ってやり切りました。

小笠原での星見は以上でミッションコンプリートです。

小笠原で星を見てきました -5:星を見る場所

今回は父島内の星見に適した観望地の話です。

旅行を計画している段階でたびんちゅさんという父島のツアーガイドさんに連絡を取ったところ、面識がないにも関わらず貴重なアドバイスをくれました。要約すると以下のとおりです。

  • 本格的に星見をしたい人にとって、ツアーガイドが催行するスターウォッチングやナイトツアーは物足らないはず。レンタカーを借りて自分で星を見ることを勧める。
  • レンタカーは早めに予約した方がよい。

このアドバイスに従って、おが丸の予約が確定した日に島内唯一のレンタカー業者・小笠原整備工場レンタカーに予約を入れました(おが丸の予約確定前はレンタカー予約不可)。

また観望候補地として以下の場所を教えてくれました。

  1. ウェザーステーション展望台
  2. 旭平展望台
  3. コペペ海岸
  4. 小港海岸

結論から言うと1のウェザーステーション展望台で星見をしましたが、それぞれ明るいうちにロケハンしたので写真付きで紹介させていただきます。

ウェザーステーション展望台

宿がある二見港付近から車で7~8分ほどの高台にあります。大きい四阿(あずまや)があり、その南側と西側に大きく張り出すテラスがあります。かなりしっかりしたテラスなので揺れることはありません。この南側テラスに望遠鏡を置くと北側以外の空がすべて見えます。突然スコールが来ても四阿に緊急避難が可能です。

ウェザーステーション展望台の四阿
南側テラスからの眺望。冬にはここからホエールウォッチングが可能とのこと。

このテラスのすぐ横に駐車場があり、トイレも併設されています。

ウェザーステーション展望台駐車場のトイレ

というわけでほぼ理想的な観望場所です。

旭平展望台

二見港付近から東へ車で15分ほど山道を登って行くとあります。ここは島の東側になるので東側の眺望は素晴らしいのですが、西側の空はほとんど見えません。この展望台は道路のすぐ脇にあるので望遠鏡の設置はさほど大変ではありません。ただし地面は土で、トイレもありません。

星を見るとしたら写真奥のフェンス際
平展望台からの眺望。日の出を見るには最適の場所。

コペペ海岸

二見港付近から南へ車で30分弱かかります。望遠鏡を置くとしたら砂浜近くの広場になりますが、そこまで駐車場から少し歩かなければいけないのと、途中に階段や細い橋があるので、機材を運び込むのは難しいです。ただし昼間ここから見るビーチの景色は美しいです。島内はこんなビーチがいくつもあります。

小港海岸

コペペ海岸に比較的近いです。ここは駐車場からかなり歩かなければいけないようで、小港海岸のバス停まで行って引き返しました。

東京都最南端のバス停

観望候補地の紹介は以上です。次回はいよいよものすごい天の川の話です。

参考:父島の地図(PDF)(東京都小笠原支庁HPより)

小笠原で星を見てきました -4:持ち込んだ機材

ここで小笠原に持っていった機材を紹介します。下の写真の機材を父島に持ち込みました。

この写真は自宅で撮影

上記のうちアストロイドについて少し説明します。これは電子ファインダーと呼ぶべきもので、この赤い筐体にレンズ、CMOSカメラ、ラズパイコンピューターが組み込まれています。

COMSカメラに映った星の配列から、今望遠鏡がどこを向いているのかを解析し(これを「プレートソルビング」と呼ぶそうです)、Android端末(この機材で言えば8インチタブレット)に星図で示します。アストロイドとAndroid端末間の通信はWi-Fiです。

天体の検索も可能で、Android端末側から見たい天体を入力すると、望遠鏡を動かす方向を示してくれます。具体的なイメージはこちらをご覧になることをお勧めします。

アストロイドはUSB5Vが必要なので、それを供給するためにモバイルバッテリーも取り付けました。

8インチタブレットとモバイルバッテリーは、エアロバイク用のタブレットホルダーを購入して使いました。このように取り付けたおかげで、望遠鏡がどちらに向いても配線が絡むことはありません。

8インチタブレットとモバイルバッテリーの取り付け方

8インチタブレットに映すアストロイドの画面は、ナイトモードにしても明るすぎるので、赤い透明の塩ビシートを貼り付けました。このシートの上からでもタブレットの操作ができます。

さてこれだけの機材(推定20kg以上)をどうやって運んだか、ですが、宅配を利用しました。今回調べてみて驚いたのですが、クロネコヤマトの場合、父島へ送る料金は、東京23区内と同じでした。

しかもありがたいことに、私が宿泊したペンションに限らず、父島内のほとんどの宿は、前の便のおが丸で送ると宿泊当日まで保管しておいてくれます(ただし要事前連絡)。

実際私の荷物は120センチサイズのダンボール3箱だったので、片道料金が5千円ぐらい。前の便のおが丸に載せられたので、宿について部屋に入ったらその荷物がちゃんと置いてありました。

またビノキットは分解可能なので、その分ダンボールもコンパクトになります。

ダンボールの中には機材だけでなく、父島でしか使わない着替え等も緩衝材代わりに詰めておいたので、おが丸に乗る際の手荷物は最小限で済みました。

帰る際は、宿にお願いしておくと朝イチでクロネコヤマトさんが集配に来てくれ、同じ船便に載せてくれます。おがげで荷物は帰宅翌日に受け取れました。

離島とはいえ、宅配で荷物が送れるのは国内ならではのメリットです。これを利用しない手はありません。

小笠原で星を見てきました -3:おが丸での船旅

ところでなぜこの時期(6/29-7/4)を選んだか、ですが、参考にしたのは父島の月別降水量の推移です。これによると雨が最も少ないのは1月~3月。その次が7月です。7月というと本州は通常梅雨の真っ最中ですが、小笠原は梅雨前線のはるか南になるので雨が少ないようです。夏の天の川が見たかったのでこの時期の新月期を選びました。

さて無事おが丸に乗り込み、いよいよ出航です。桟橋では関係者による送迎がありました。

ひときわ目立つ着ぐるみはマスコットキャラクターの「おがじろう」
海の色がどす黒い。。。
レインボーブリッジ(違ってたらすみません)通過

船内の食事ですが、レストランと展望ラウンジがあり、さらに売店もあるので、食べることには困りません。「売り切れ」もなかったので、早い時間に焦って食べに行く必要もありません。

驚いたのは7デッキ(船では「7階」といわず「7デッキ」と言うようです)の展望ラウンジの光景です。自分の部屋に荷物をおいて一息ついたあと展望ラウンジを覗いてみたらすでに満席で酒盛りが始まっていました。おそらくこの人たちはリピーターさんで、乗船直後に席を取ったと思われます。同じように屋外デッキの円卓も酒盛りで満席でした。

スマホの電波は東京湾を出ると入らなくなりました。次に電波が入るようになったのは父島到着1時間前です。強制的なデジタルデトックスです。

特2等寝台以上の部屋にはテレビがありますが、スマホの電波と同じように地上波が入るのは東京湾までです。ただし衛星放送はずっと入りました。また船内放送も何チャンネルかあり、洋画、邦画、アニメ、おが丸の航行状況などが常時配信されていました。

船内放送のひとつ、おが丸の航行状況。出航から4時間以上経過してもやっと東京湾を抜けたぐらい。

各フロアには鍵がかかる個室タイプのシャワー室もあります。24時間の船旅ですからこういう施設もありがたいです。

日没直後の屋外デッキからの眺め

屋外デッキは夜の10時から日の出30分前までは出ることができませんでした(おそらく安全上の措置)。それでも夜10時前に屋外デッキに出てみたら、雲間からはくちょう座あたりの天の川が濃く見えていました。父島の天の川への期待がますます高まってきます。

ちなみに屋外デッキはすべてブリッジ(艦橋)の後方にあるので、進行方向の空が見えません。つまり父島に向かうとき、いて座方向の天の川(=南側)は見えません。これはちょっと残念でした。

しかし大ラッキーもありました。明け方グリーンフラッシュを見ることができました!生まれて初めてです。日の出前屋外デッキに出てみたら割とよく晴れているので「ひょっとしたら」という思いで凝視していたら本当に見えました。時間にしたら1秒から2秒ぐらいでしょうか。かなり強い緑色の光でした(もっと弱い光を想像していました)。日の出を告げる閃光です。同じデッキにいた人たちとこの大幸運を喜び合いました。

日の出直前の東の空。このあとグリーンフラッシュが!

小笠原に近づくと、いよいよ海の青さが際立ちます。別世界に来たことを実感します。

この海の青さと言ったら。遠方の島影は小笠原諸島。

そしてついに父島到着。

やっと下船。

このあと港に迎えに来ていた宿の方の送迎で予約していたペンションに入りました。

宿泊先のペンション。手前の道路は父島のメインストリート「湾岸通り」。

小笠原で星を見てきました -2:おが丸に乗るにあたって

前回書いた通り、小笠原諸島に行くにはおがさわら丸(通称「おが丸」)に乗るしかありません。このチケットの入手方法はいくつかあります。私の場合は宿とセットになったツアーを扱うナショナルランド(小笠原旅行専門のツアー会社)を通じて申し込みました。正確な比較はしていませんが、一般的な旅行会社のツアーよりもお値打ちのようです。

おが丸に乗船する竹芝客船ターミナル(JR浜松町駅から徒歩約10分)

ツアーを申し込むにあたって最初に決めなければいけないのは、母島まで行くかどうかです。母島へ行くには父島で船を乗り換えて、さらに片道約2時間の船旅になります。父島よりもさらに人口が少ないので、いっそう空が暗いことが期待されますが、往復で4時間以上、つまり約半日船に乗る時間が増えてしまいます(父島・母島間の船はほぼ毎日運行)。その時間が惜しかったのと、今回欲張って海のアクティビティもしたかったので、それが充実している父島オンリーのツアーとしました。ちなみに母島にもペンション等の宿泊施設はありますが、その数は父島に比べるとぐっと少ないようです。

おが丸は約800人乗れる大型客船(私が行ったときは新型コロナの関係で約500人乗船)で、船室はいくつかのグレードに分かれています。プライバシーが確保されるのは2等寝台からになります。私の場合、行きは1等室、帰りはそれよりワンランク下の特2等寝台を利用しました。特2等寝台はベッド横の通路に他人が入ってこない構造になっているので、比較的セキュリティが確保されます。上のランクになればなるほど快適ですが、お値段もそれなりになるので、私としては特2等寝台で十分でした。

出発の4ヶ月ほど前にツアーの申込みを行いましたが、船室も含めてツアーが確定するのは約2ヶ月前です。これはナショナルランドの都合ではなく、おが丸を運行する小笠原海運の都合と思われます。ナショナルランドによると、早く申し込めば希望の船室が予約できるというわけでもなく、かといって抽選でもないそうです。じゃあ、どうやって決めるの?と思いましたが、結果としては希望通りの船室で行けることになりました。

今回少し面倒くさかったのは、直前のPCR検査が必要だったことです。これはいずれなくなると思いますが、私が行ったときはまだ必要でした。出発の1週間ほど前に検査キットが送られてきて、出発前日の96時間以内にサンプリングした検体を送り返しました。出発の前日までに連絡がなければ陰性ということだったので、ちょっとどきどきでした。万が一陽性の場合はもちろん船に乗れず、予約もすべてキャンセル(有料!)となります。結局陽性の連絡がなかったので、無事出発できることになりました。

竹芝客船ターミナル内のナショナルランドブース。ここで乗船チケットを受け取る。

小笠原で星を見てきました -1:はじめに

6/29-7/4の日程で小笠原諸島・父島へ行って、ものすごい天の川を見てきました。何回かに分けてそのレポートをさせていただきます。

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まずは小笠原諸島についてですが、東京から南へ約1,000キロ。人が住んでいるのは父島(人口約2,000人)と母島(人口約450人)だけです。

出航直前のおがさわら丸

父島に空港はないので、行くには6日に1回東京から出航する「おがさわら丸」に乗るしかありません。なので最低でも6日間の旅程になります(ただし夏休み等のハイシーズンは3日に1回出航するようです)。

しかもこの船旅、片道きっちり24時間かかります。したがって6日間の旅行といっても、現地で3泊、残りの2泊は船中泊となります。つまり星を見るチャンスは3晩しかありません。

星見を計画したのは半年以上前からですが、意外なことに小笠原の詳細な星見情報をネットで見つけることができませんでした。実際現地でも本格的に星見をしている人には出会えませんでした。ロケーションから考えると空の暗さは容易に想像できるのですが、「船しかない」「最低6日間」がハードルとなって、実際に行く人は少ないのかもしれません。

そういう意味でこのレポートは、これから小笠原行きを計画される方の参考になるような情報を盛り込んでいきたいと思います。

電視観望

最近電視観望を始めました。

Big Binoのホームページ(私のプライベートなホームページ)に詳しく掲載しましたが、市街地でもびっくりするぐらいよく見えます。電視観望にもいろいろな楽しみ方があるようですが、私の場合は中口径長焦点距離で映す系外銀河が楽しいです。25センチ双眼望遠鏡ではどんなに暗い空でもここまでは見えません。

直接星の光を見る観望ではないので正直多少の違和感が残りますが、そこは割り切って楽しんでいます。

ただし、球状星団や散開星団は従来どおりのダイレクト眼視(直接星の光を見るスタイルの眼視)がいいなと思いました。デジタルの場合輝星は「大きな白丸」で表現されますが、優秀な光学系を使ったダイレクト眼視なら輝星は「明るい点」で表現されます。やはり星の集まりは、点像の星の集まりとして見たいです。

これから当面の間、系外銀河や惑星状星雲は電視観望で、球状星団や散開星団は双眼望遠鏡で、それぞれ楽しんでいきたいと考えています。

「都会で星を楽しもう」

双望会で知り合った小雲夕さんの新刊【都会で星を楽しもう】を入手しました。【DSO観望ガイドブック】と【DSO観望ガイドブック「南天編」】に続いての購入です。

観望大好きな方は多いと思いますが、ここまできちんとインプレッションを記録をされる方はまれです。さらにその記録をこうして本の形にまとめて自費出版される方はもっとまれです。大きな熱量を感じます。

今回入手した【都会で星を楽しもう】に目を通して興味深いのは、概ね8等級を境に、途端に見えなくなることです。これは私の自宅(三重県)からの観望でも同じことを経験しています。市街地では10センチ屈折双眼でも25センチマクストフニュートンでも限界等級は8等です。口径の問題ではありません。おそらく空の明るさが8等級なのだと思います。

いずれにしてもこれらの本は、経験をシェアしたいという思いからの、おそらく赤字覚悟の出版なので、在庫がなくなったら終わりです。「次」はありません。興味のある方は早めの入手をお勧めします。

http://www.albireo.jp/DSO_Stargazing_Guidebook.htm

http://hoshimiya.com/?pid=149199288