小笠原で星を見てきました -6:父島で見る天の川

さて観望場所も決まっていよいよ星見です。このブログの-1に書いた通り、チャンスは3晩しかありません。しかも夏至直後で極端に夜が短い時期です。薄明を避けると夜の9時から明け方3時が勝負です。

意気込んで臨んだ1晩目はあいにくの曇りでした。それでも薄明が残っている20時頃、宿の外に出てみると、東の方に少し晴れ間が見えました。街灯があるにも関わらず、ザラッとした濃い天の川がはくちょう座を貫いていました。いやが上にも期待が高まります。しかし願いも虚しくまもなく全曇り。そのうち雨も降り出してこの夜は早々に諦めました。明け方にはすごい雨音のスコールもあったので、望遠鏡を出さなくてよかったです。

気を取り直して2晩目。20時頃スコールがありましたが30分ほどで止み、そのあと晴れ間が広がってきました。いよいよ出動です。レンタカーに双眼望遠鏡一式を積み込んでウェザーステーション展望台に向かいました。

そこで見た天の川は想像をはるかに超えていました。天の川の明るい部分と暗い部分の輝度差がすごいです。特にいて座の南斗六星の少し下あたりの濃い部分は、輝くように明るいです。一方そこから西側に、暗黒帯を挟んで広がる天の川は、淡いながらもしっかり見えています。写真では見たことがありますが、肉眼でここまで見えるとは思いませんでした。ひっきりなしに雲が流れてくる空でしたが、この天の川がわし座、はくちょう座と流れていくさまは壮観です。

松尾芭蕉が奥の細道の序文で「松島の月まず心のかかりて」と書いていますが、同じように私も小笠原行きを考え始めたときから「小笠原の天の川まず心にかかりて」でした。24時間かけてここまで来た苦労がすべて報われた気持ちです。

下の写真は現地で固定撮影した写真を、現地で見たイメージに合わせて画像処理したものです。淡い部分に切れ込む暗黒帯もこんな感じです。ふだん撮らない人の拙い写真で恐縮ですが、少しでもイメージが伝わればと思います。

左上隅の白い影とさそり座下あたりの黒い影は雲

天の川以外にも目を引くものはあります。例えばさそり座の高さです。さすが北緯27度(沖縄と同じぐらい)、位置が異様に高いです。天の川が直立する夜半すぎ、さそりはほぼ水平に横たわりますが、それでも全景が見えています。南国に来たことを実感しました。

ただしこの夜は直前のスコールのせいで湿気がひどく、望遠鏡はあっという間に曇ってしまいました。したがってもっぱら肉眼と手持ち双眼鏡(42mm)での観望でした。

そして3晩目。天の川が凄いのは分かったので、この日は何としてでも望遠鏡で星を見たいものです。そしてその望みは叶いました。

この日はスコールもなく、多少雲があるものの、空もまずます。21時過ぎにウェザーステーション展望台へ出動しました。

はじめは32倍(アイピースはナグラータイプ4・22mm)でメジャーな天体を観望。天の川にかかる天体のまわりはものすごい星の数です。

次に71倍(アイピースはデロス10mm)に切り替えると各天体がクローズアップされて迫力が増します。10cm双眼望遠鏡を持ってきてよかったです。

0時頃、天の川の写真を撮りにウェザーステーション展望台へ来られた方がいたので、声をかけてM11を見てもらいました。しばらくご覧になったあと覗いたまま「すみません、ちょっと望遠鏡の先を手で塞いでもらえますか?」というリクエストがありました。「いいですけど何かありました?」と逆質問したところ、「いや、疑ってるわけじゃありませんが、リアルに見えていることを実感したくて」とのことでした。まるで映像が嵌めてあるような錯覚に陥ったそうです(笑)

電子ファインダーのアストロイドは、32倍なら視野内に導入できました。71倍では当たらずとも遠からずという感じです。供給者の話では「80倍でも大丈夫」とのことだったので、使い方に問題があったのかもしれません。視野を多少ずらすとだいたいお目当ての天体が入ってくるので、私としてはこれで十分です。プレートソルビングによるタイムラグがあるので、少し慣れが必要です。

夜半過ぎ、東の空に木星が昇ってきました。土星と併せて71倍で見たところ、ひと目でわかる好シーイング。このシーイングが小笠原の「普通」なのかもしれません。高倍率の出せるアイピースを持ってこなかったことが少し悔やまれます。

基本的に小笠原のような離島の場合、湿度は常に高いと考えてよさそうです。実際、ブログの-3で紹介した父島の月別降水量の推移を見ても、年間を通じて湿度はほぼ70%以上です。この晩、スコールこそありませんでしたが、撤収するころには鏡筒が夜露で濡れていました。

結局この日もウェザーステーション展望台に望遠鏡を持ち出しているのは私だけでした。これだけの空とロケーション、そして夏の天の川の最も見頃な時期なので、もったいないなと思いました。

そして1時過ぎに撤収。本当は3時頃まで見ていたかったのですが、この日はもう帰る日。同じ船に載せるため、朝までに望遠鏡等を梱包して宅配を依頼しなければなりません。「またこの星空を見に来ることができるだろうか」と少し感傷的な気持ちになりながらも、宿に戻って寝ずに望遠鏡の梱包を開始しました。どうせこの日は15時におが丸に乗船して24時間の「休憩時間」が与えられるので、頑張ってやり切りました。

小笠原での星見は以上でミッションコンプリートです。