お宝鏡筒はもう出ない?

夢を壊す話になって恐縮ですが、同じモデルの中でも特に優れた鏡筒、いわゆる『お宝鏡筒』は出にくい時代になりました。その理由は、望遠鏡が『工業製品』になったからです。

以前の投稿で書いた通り、今どきの望遠鏡の多くは工場で大量生産される工業製品です。工業製品の特徴のひとつは、品質がコントロールされていることです。何にどれだけの手間とコストをかければ、どれだけの品質が得られるか、製造者は完全に把握しています。必ずしも最高性能をねらうとは限りません。性能がよくても価格が高いと売れないからです。キーワードは『お値打ち感』。「この値段でこの性能なら悪くない」とお客さんに思わせるところをねらってきます。

このような考え方に基づいて品質管理された製造システムの中で、「作ってみたらすごい出来栄えの望遠鏡ができちゃった」ということはあり得ません。あえて言うなら、あってはならないことです。品質管理ができてないことを意味するからです。

かつてメーカーの職人さんたちが、ユーザーの喜ぶ顔を心に描き、プライドをかけてレンズや鏡を磨いた時代がありました。『工業製品』ということばと対比させるなら、『工芸品』と呼ぶべき製品が作られた時代です。お宝鏡筒は主にこの時代に生まれました。私にもこの時代への郷愁はあります。しかしその一方で、同じモデルを買ったのに、ある個体は普通の性能、ある個体は優れた性能、では消費者は困ります。同一価格、同一性能があるべき姿です。

それでもお宝鏡筒が欲しい場合は、どれを買ってもお宝レベルの高性能モデル(例=メーカーフラッグシップモデル)を買うか(もちろん高価!)、今でも工芸品レベルの優れた鏡筒を供給しているメーカーへ特注するか(もっと高価!!)になります。

 

気になる機材の購入はお早めに

中国や台湾には望遠鏡のOEMメーカーがいくつかあります。これらのメーカーは、一般ユーザーに直接販売することはありません。自社ブランドもありません。世界中のエンドユーザー向けメーカーやディーラーへ製品を供給する黒子的存在です。自社製造していると私たちが思っている製品も、実はこういったOEMメーカーで製造されている場合が多いようです。ただし、各供給先の仕様や要望に合わせて大なり小なりデザインが変えてあるので、まったく同じものが複数のブランドで販売されることはありません。

また、これらOEMメーカーへの発注は、例えば屈折望遠鏡なら最低100本以上と言われています。大量発注しないとコストが下がらないからです。当然発注者(エンドユーザー向けメーカーやディーラー)は全量買取なので、市場で売れなかった場合のリスクは発注者が負います。

そして多くの場合、初回発注分でその製品は終わりです。よほど売れる見込みがなければ追加発注はありません。仮に追加発注したとしても、OEMメーカーの都合で供給停止になる場合があるようです。

そういうわけで、気になる鏡筒やアイピースは早めに購入されることをお勧めします。