自作の意義

20年ほど前、私が25センチ双眼望遠鏡『BigBino』を製作したころ、望遠鏡の『自作』はその意義が少し勘違いされていました。自作は低コストで望遠鏡を得る手段、出来栄えは日曜大工レベル、と見られていました。これは、当時の天文雑誌のミスリードによるものもありました。自作コーナーで紹介される機材へのコメントで、そう見ているのがよくわかりました。あくまでメーカー製が上で、自作は下、そういう位置づけでした。

ところが、BigBino製作をきっかけに知り合った自作派の達人たちの作品を見ると、そんな認識がまったく的外れであることがわかりました。金属加工はプロレベル。高性能な光学系、眼視に特化した鏡筒、使い勝手にこだわった架台など、こだわる部分は徹底的にこだわり、不要と思う機能はばっさり切り捨てていました。そもそもの製作の動機が、「メーカー製にないから」あるいは「メーカー製に満足できないから」ですから、出来上がったものは突き抜けていました。もちろん「安く作るため」という視点はありません。実際、メーカー製を買うよりも多くのお金を費やしたはずです。

もちろん、メーカーにはメーカーの事情があります。メーカー製はたくさん売れることが最も大事です。たくさん売れることを前提にして部品を大量発注し、コストを下げています。売れなかったらたいへんなことになります。そのため、スペックは最大公約数的なものにならざるを得ません。

さて、約20年経ち、その後どうなったか。

昨年まで仲間と開催していたスターパーティーに集まってきていた機材を眺めると、自作は減ったように思います。正確に言えば、オール自作は減り、メーカー製を少し改造した機材は多くなっていました。これは、この20年間でメーカー製の多様化が進み、天文ファンの欲しいものが簡単に手に入るようになったからだと推測しています。また、インターネットの普及で海外の機材も入手しやすくなり、ますます選択肢が増えたからだと思います。

それでも今なお自作をされる方というのは、目指すところが相当高いところにあります。そういう機材と、そういう機材を作る人に出会えることを、今も楽しみにしています。

高剛性フリーストップ架台 売ります(1台限定)

【売約済み】2018.5.13

以前このブログで紹介した高剛性フリーストップ架台を1台限定で販売します。

内容は以下の通りです。

  • 伸縮式ピラー三脚
  • 経緯台ヘッド
  • ロスマンディ規格アリミゾ金具
  • キャリーバッグ
  • シーティングプレート
  • ウェイトシャフト(直径20ミリ)

デモ品であったため、外観に多少のこすれ傷があります。ただし機能上有害な傷や故障はありません。

価格は28万円(税込、送料込)です。

三脚のみ、経緯台ヘッドのみの単品販売はいたしません。

先日のブログでは「韓国ガレージメーカー製」と紹介しましたが、製作されたのは韓国の盧(ノ)さんという方です。最近まで日本に製品が入ってきていなかったので、日本ではほとんど知られていませんが、この方が製作する架台は”Noh’s Mount”(ノース・マウント)と呼ばれ、韓国の天文ファンの間では有名だそうです。

この製品を紹介してくれた知人によると、この盧さんはかつて韓国の財閥系企業で新製品の試作品を作る仕事に従事されていました。リタイアしたあと、そこで磨いたスキルを趣味の天文に生かそうと、望遠鏡用の架台を作り始めたそうです。金属部品はすべて自ら加工されていますが、そのレベルの高さは写真からもわかっていただけると思います。

また、写真での紹介はありませんが、ノース・マウントの経緯台ヘッドは内部に空間がほとんどありません。そのため、コンパクトながら高い剛性を実現しています。さらにフリクション(摩擦)調整の機構もユニークで、操作感がすばらしいです。普通のフリーストップ架台は、摩擦調整のハンドルと締めこんでいくと、ある時から急に摩擦が強くなります。ところがノース・マウントは締めこんだ量と摩擦力(=操作に必要な力)が比例する感覚があります。簡単に思われるかもしれませんが、実はこれはとても難しい技術です。作るのが簡単と思われがちなフリーストップ経緯台も、真面目に突き詰めればこうなるという見本のような製品です。

このノース・マウントは、最近アイベル様でも扱いを始めていらっしゃいます。今回販売するセットの経緯台ヘッドは、こちらの”M”タイプのプロトタイプ品です。ただし三脚との取り付けは異なります。取り付けの互換性はないのでご注意ください。

また、伸縮式ピラー三脚は、新品を入手したい場合は特注品扱いになります。ご希望の方はビノテクノへご注文ください。価格は25万円(税抜)になります。その他のノース・マウントもビノテクノで購入可能です。

購入ご希望または内容問い合わせはビノテクノまでご連絡を。

BLANCA-60SEDビノ アイベル様にて展示中

先日このブログで紹介したBLANCA-60SEDビノを、三重県津市の天体望遠鏡ショップ・アイベル様へお願いして、1か月ほど店内に展示させていただくことにしました。アイベル様へお立ち寄りの際はぜひご覧ください。

前回のブログに書いたバックフォーカス不足は、結局アイピーススリーブをアメリカンサイズ専用とすることで解消させました。したがって2インチサイズのアイピースは使えません。

展示中の反応を見て正式に販売するかどうかを決めます。販売価格は298,000円(税抜)を予定しています。アイピースや架台は付属しません(L字の金具は付属します)。

ちなみに、写真に写っているアイピースは北軽井沢観測所製RPL25mm、架台はアイベルオリジナルのAPZ・PORTA経緯台です。

「6センチの双眼鏡で30万円は高すぎる!」と思われる方がいることは重々承知していますが、実際に覗いていただければその価値が理解していただけると思います。手持ち双眼鏡とは別次元の見え方です。

ボールポイントを片手で回すワザ

ボールポイント(レンチ)の続編です。

ワザというほど大げさな話ではありませんが、

ひとりで機材の組み立てや分解を行うとき、ボールポイントが片手で回せると何かと便利です。片方の手で組み立てたい(あるいは分解したい)部品を持ち、もう一方の手でボールポイントを回せば、安全かつスピーディーに作業が行えます。

片手で回す方法は他にもいろいろあると思いますが、今回紹介する方法は、私が若いころ職場で出会ったプロのメカニックさんから教えてもらった方法です(この方法が一般的かどうかは不明です)。

写真のように、ボールポイントの長い方を中指と薬指の間に挟み、短い方の先端に親指の腹をあてがいます。このように持ってボールポイント先端をボルト頭に差し込みます。あとはボールポイントの長い方を軸として、できるだけぶれないように注意しながら親指だけでくるくる回します。慣れればすぐできるようになります。さらに慣れると普通のレンチでもできるようになります。

ちなみに私の場合、締める時は右手がやりやすく、緩める時は左手がやりやすいのですが、プロはどちら自由自在です。回す速度も、私はせいぜい1秒間に1回転程度ですが、プロは1秒間に2回転以上回せます。そこまでの域に達すればさらに便利ですが、機材のボルトはそれほど多くないので、天文ファンとしては片手でできるだけで十分です(笑)。

余談ですが、技能五輪選手のデモンストレーションを見たことがあります。冒頭バイス(万力)のハンドルを回すスピードに度肝を抜かれました。1秒間に4回転以上回していたと思います。彼らは「アスリート」と呼ぶべき存在です。

それはさておき、このワザが使えるのは、ボルトが緩んでいるときだけです。最後に締め込む時や最初に緩める時は、ボールポイントの短い方の先端(ボール状になってない方の先端)をボルト頭に差し込み、長い方を持って力を入れます。さらに言うなら、力を入れる時は自分の手前に引っ張る方向が安全です。奥へ押すように力を入れると、急にゆるんだり、レンチの先端がボルトから外れたりしたとき、手を構造物にぶつけてけがをすることがあります。

いずれにしても機材の組み立てや分解は、重量物運搬もあるので危険な作業です。できるだけ安全な方法を身に着けられることをお勧めします。楽しいはずの趣味で怪我をしてしまったら元も子もありません。

 

よい鏡筒にはよいアイピースを

またお金がかかる話で恐縮ですが、アイピースはぜひよいものをお使いください。よい鏡筒の場合は特にです。眼視ベテランの方たちには釈迦に説法ですが、よいアイピースはよい鏡筒のポテンシャルを最大限に引き出します。

「鏡筒を買うのが精いっぱいで、アイピースにまでお金をかける余裕がない」という方もいらっしゃると思います。正直言えば私も昔そうでした。「アイピースなんてどれも同じ」と、廉価版のアイピースしか持たず、「自分の鏡筒はまあこんなもの」とわかった気でいました。ところがあるとき知人から借りた高級アイピースを着けてみてびっくりしました。星像が全然違います。このときはじめてこの鏡筒のポテンシャルを知り、速攻でそのアイピースを購入しました。

いくらぐらいからを高級アイピースというか、人によって違いますが、私の場合「1本3万円以上」を目安にしています。露骨な言い方をするなら、3万円以上と1万円以下では明らかに違います。

特に双眼の場合2本要るのでさらに悩ましいのですが、せめてよく使う焦点距離だけでも購入しておくことをお勧めします。

選定にあたって注意すべきは、見かけ視野の広さにあまりこだわらないことです。アイピースの性能を数値で表すのは難しいのですが、見かけ視野は珍しく数値で表せるスペックです。このため売る側はこの数値をアピールしがちですが、実際に一度に見渡せるのは、私の場合せいぜい70度ぐらいまでです。それ以上は目をぐるりと回さないと見渡せません。また、アイピースによっては、見かけ視野が広くても良像範囲が狭いものもあります。

もっとも良像範囲は、主鏡のFにも左右されます。一般的にFの短い鏡筒の方が良像範囲は狭くなる可能性があります。ただしアイピースによっては、Fの短い鏡筒を想定した設計がなされているモデルもあるので一概に言えません。

具体的な機種選定は、アイピースメーカーや信頼できる販売店に相談することをお勧めします。もちろん、実際に貸してくれる知人がいるなら、それがベストです。

BLANCA-60SEDビノ試作中

こういうのもおもしろいかと思って作ってみました。

鏡筒は笠井トレーディングのBLANCA-60SED、クレードルはビクセン規格のアリガタプレート(特注品)を2本L型に組み合わせただけの構造です。

目幅調整は片方のアリミゾプレートを緩め、アリガタプレートに沿って動かします。アリミゾプレートを緩めても、鏡筒が落下することはありません。

目幅調整中一時的に左右の光軸が合わなくなりますが、アリミゾプレートを締め直すと復元します。複数の人が代わる代わる見る観望会には向きませんが、基本的に一人で見るパーソナルな使い方ならこれで十分です。鏡筒が軽いことを利用して、このように割り切った構造を考えてみました。

写真に写っているアイピースはテレビューのパンオプティック24mm。対物レンズの焦点距離は360mmなので倍率は15倍。高性能の対物レンズにとってこの程度の倍率なら星像は当然のように針点像です。実視野は約4.5度でオリオンの三つ星が余裕ですべて入ります。

先週末郊外で使ってみましたが、ぎょしゃ座の散開星団M38-M36-M37から、天の川に沿ってM35あたりまで流してみると、ある意味当たり前ですが、手持ち双眼鏡では味わえない迫力がありました。口径が6センチなので、星団が濃いです。このときの架台は笠井のAZ-3を使いましたが、ビクセンのポルタ経緯台でも使えます。

ただしこのビノ、ひとつ問題があります。BLANCA-60SEDのバックフォーカスがEZMの光路長とほぼ同じなので、ピントに余裕がありません。パンオプティック24mmは焦点位置がアイピース突き当て面から対物レンズ側に寄っているので使えましたが、焦点位置が突き当て面付近にあるといわれているプルーセルを含めて、ほとんどのアイピースが使えませんでした。特に2インチアイピースは焦点位置がアイピース側に寄っているものが多いです。

この企画が受けるかどうか未知数なので商品化するかどうか決めかねていますが、仮に商品化する場合はEZMをアメリカンサイズ専用にして光路長に余裕を持たせようと考えています。

双眼望遠鏡完成品 CAPRI102からBLANCA102へ

双眼望遠鏡の完成品として販売していたBINO-CAPRI102の鏡筒CAPRI-102EDの販売終了連絡が笠井トレーディング様からありました。すでに在庫も払底しているとのことなので、ビノテクノもBINO-CAPRI102の販売を終了します。

次モデルとして、同じく笠井トレーディング様から販売されている鏡筒BLANCA-102SEDを使った双眼望遠鏡の完成品販売を開始します。BLANCA-102SEDによるビノはすでに笠井トレーディング様扱いで販売されていますが、ビノテクノでは、銀メッキミラーに限らず、アルミメッキ、誘電体コート仕様も販売します。

FPL53+ランタン素材を使った2枚玉アポクロマート対物レンズのBLANCA-102SEDはCAPRI-102EDを凌ぐ性能で、きりりと引き締まった星像を両目に届けてくれます。剛性の高い接眼部、余裕あるバックフォーカスで、まさに双眼望遠鏡向きの鏡筒です。

http://binotechno.com/product.html

※ モデル変更に伴い、架台、三脚、アイピースのオプションは終了します。

お宝鏡筒はもう出ない?

夢を壊す話になって恐縮ですが、同じモデルの中でも特に優れた鏡筒、いわゆる『お宝鏡筒』は出にくい時代になりました。その理由は、望遠鏡が『工業製品』になったからです。

以前の投稿で書いた通り、今どきの望遠鏡の多くは工場で大量生産される工業製品です。工業製品の特徴のひとつは、品質がコントロールされていることです。何にどれだけの手間とコストをかければ、どれだけの品質が得られるか、製造者は完全に把握しています。必ずしも最高性能をねらうとは限りません。性能がよくても価格が高いと売れないからです。キーワードは『お値打ち感』。「この値段でこの性能なら悪くない」とお客さんに思わせるところをねらってきます。

このような考え方に基づいて品質管理された製造システムの中で、「作ってみたらすごい出来栄えの望遠鏡ができちゃった」ということはあり得ません。あえて言うなら、あってはならないことです。品質管理ができてないことを意味するからです。

かつてメーカーの職人さんたちが、ユーザーの喜ぶ顔を心に描き、プライドをかけてレンズや鏡を磨いた時代がありました。『工業製品』ということばと対比させるなら、『工芸品』と呼ぶべき製品が作られた時代です。お宝鏡筒は主にこの時代に生まれました。私にもこの時代への郷愁はあります。しかしその一方で、同じモデルを買ったのに、ある個体は普通の性能、ある個体は優れた性能、では消費者は困ります。同一価格、同一性能があるべき姿です。

それでもお宝鏡筒が欲しい場合は、どれを買ってもお宝レベルの高性能モデル(例=メーカーフラッグシップモデル)を買うか(もちろん高価!)、今でも工芸品レベルの優れた鏡筒を供給しているメーカーへ特注するか(もっと高価!!)になります。

 

ミシェル・クワンの名言

今回は望遠鏡や星と関係のない話題です。

昨日ピョンチャンオリンピックが終わりました。私もそうですが、連日テレビの前で観戦していた方も多いと思います。日本人に限らず、アスリートたちがこの舞台で最高のパフォーマンスを見せてくれました。

オリンピックはなぜこんなに感動できるのか?

私自身はスポーツとは無縁の人生を送ってきたので技術的なことはわかりませんが、それでもあの場に立つことがどれだけ大変なことかぐらいのことはわかります。オリンピックは、各国で『天才』と呼ばれる人たちが死ぬほど努力をしても、メダルの取れる保証がない厳しい世界です。運不運もあります。それでも結果にかかわらず私たちは、アスリートに拍手を送りたくなります。なぜなのか?

そんなときに聞いたのがミシェル・クワンの言葉です。彼女は98年長野大会の女子フィギュア金メダル候補でしたが、15歳のタラ・リピンスキーに負けて銀メダルでした。そして次のオリンピック、母国開催のソルトレークシティ大会でも金メダルは取れませんでした。

その彼女の言葉です。

「私はオリンピックで金メダルを取るのが夢だった。夢をつかむのがスポーツなら、夢に届かないのもまたスポーツ。でも、夢をつかむために精一杯努力することこそがスポーツなのだ。私は今まで精一杯努力した。だから夢をつかめなくても悔いはない」

この言葉は、昨年浅田真央さんが引退表明した時、NHKのスポーツ解説者、刈谷富士雄さんがラジオで紹介してくれました。私はその時初めて知りました。

ミシェル・クワンもそうですが、浅田真央さんも悲運のアスリートと言えます。

2006年トリノ大会は、その年のグランプリファイナルで優勝していたにもかかわらず、年齢不足で参加できませんでした。2010年バンクーバー大会ではノーミスの演技だったのですが、キム・ヨナに阻まれ銀メダル。2014年ソチ大会ではショートプログラムで大失敗をしてしまい、メダルとは程遠い順位で終わりました。

それでも彼女は日本の女子フィギアで、おそらくもっとも人気のある選手です。ミシェル・クワンの名言を聞いて、その理由が腹に落ちました。浅田真央さんが精一杯努力していたことを、私たちもよく知っているからです。

翻って、私は何かのために精一杯の努力をしているかと自問すれば、自信がありません。だからこそ、アスリートたちの活躍や生き様がまぶしいのです。

 

高剛性フリーストップ経緯台

13センチクラスの双眼望遠鏡が搭載できそうな経緯台を探していたところ、「いいのがあるよ」と知人から紹介がありました。一時借用して実物を見せていただいたところ、期待以上に剛性が高く、高級感もあるので紹介させていただきます。

韓国のガレージメーカー製で、部品はすべてアルミの削り出し、ガンメタリックのアルマイトが施されています。

ピラー部は不動点高さ95センチから145センチまで調整可能。いっぱいまで高くしてもぐらぐら感はありません。

脚部は設置半径約50センチで折りたたみ可能。重さは約15キロです。

 不動点高さを床から120センチに設定した状態

 脚部から高さ調整部付近

経緯台ヘッドはシンプルな形状で、水平回転、上下回転それぞれにフリクション調整ハンドルがあります。あいにく載せる機材が手元にないので実際の使用感はわかりませんが、触った感じは動きが滑らかです。知人によると、搭載重量20キロは楽勝とのこと。見た感じ、実際それぐらいは問題なく載せられそうです。

写真のアリガタ金具はビクセン規格ですが、ロスマンディ規格もあるそうです。

 経緯台ヘッド

折りたたむと専用のキャリーバッグに収まります。

収納時に分解する部品がないので、現場設置も撤収も、素早くできそうです。

近いうちに日本でも販売を計画しているそうです。

気になる機材の購入はお早めに

中国や台湾には望遠鏡のOEMメーカーがいくつかあります。これらのメーカーは、一般ユーザーに直接販売することはありません。自社ブランドもありません。世界中のエンドユーザー向けメーカーやディーラーへ製品を供給する黒子的存在です。自社製造していると私たちが思っている製品も、実はこういったOEMメーカーで製造されている場合が多いようです。ただし、各供給先の仕様や要望に合わせて大なり小なりデザインが変えてあるので、まったく同じものが複数のブランドで販売されることはありません。

また、これらOEMメーカーへの発注は、例えば屈折望遠鏡なら最低100本以上と言われています。大量発注しないとコストが下がらないからです。当然発注者(エンドユーザー向けメーカーやディーラー)は全量買取なので、市場で売れなかった場合のリスクは発注者が負います。

そして多くの場合、初回発注分でその製品は終わりです。よほど売れる見込みがなければ追加発注はありません。仮に追加発注したとしても、OEMメーカーの都合で供給停止になる場合があるようです。

そういうわけで、気になる鏡筒やアイピースは早めに購入されることをお勧めします。

六角レンチはボールポイントがお勧め

仕事で使われる方や、DIYをされる方には当たり前すぎる情報ですが、望遠鏡の組み立てに使う六角レンチは、「ボールポイント」というタイプがお勧めです。これはL字の長い側の先端が、下の写真のようにボール状になっているタイプです。ボール状になっているおかげで、六角穴付きボルト(いわゆるソケットボルト)を回すとき、ボルトに対して六角レンチが多少斜めになっていても回すことができます。これを使うと組み立て作業の効率が上がります。暗がりの中で使うことが多い私たちにはとても便利な工具と言えます。

もちろんボールポイントタイプは普通のものより高価なので、付属品として同梱されることはありません。写真のものはボールポイントの中でも少し高級品の部類で、4,000円以上します。

また、ボルトをしっかり固定するための最後の一締めは、L字の短い側の先端(ボール状になっていない側)で行います。ボールポイント側で強く締めようとすると、ボルトの六角穴にボールポイントが食いついて取れなくなったり、六角穴がゆがんだりするので注意が必要です。

望遠鏡のユーザーさんは必ずしも工具に詳しい方ばかりではないので、あえてこういう情報も書かせていただきました。参考になれば幸いです。

「忙しい」ということばの怖さ

2017年も残すところあと一日。みなさんますます忙しい時間をお過ごしとお察しします。

この「忙しい」ということば、普通によく使いますが、私はあるときこのことばの怖さに気づいて以来、慎重に使うようにしています。なぜなら、「忙しい」は、自分の優先順位を示しているからです。

身近な例でいえば、「仕事が忙しいから家族と過ごす時間がない」は、「家族と過ごす時間より仕事を優先する」を意味します。問題は、この優先順位を相手(この場合は家族)が納得するかどうかです。昭和のモノカルチャーの時代なら「そんなのあたりまえじゃん」で終わりですが、今はそういう時代ではありません。その優先順位に家族が不満を持っていると、家族は大きなストレスを抱えます。

同様に、「・・・で忙しい、だからコレコレができませんでした」という言い訳は、その優先順位を相手が納得する場合のみ成立します。納得されない可能性があるなら、言わない方がいいです。無神経に自分の優先順位を押し付けてしまうと、後回しにされた相手の怒りに火をつけます。

もちろん逆の立場の時もあります。お願いしてあったことがなかなかしてもらえず、催促したときに「すみません、コレコレで忙しくて、、、」と言われた場合、その優先順位に納得できないと「ああ、私がお願いしたことはそれよりも優先順位が低いのね」と、がっかりします。

「忙しい」ということばは本当に怖いです。

スーパー10センチ ”D104″

昨日特注品としてHPの写真紹介コーナーに掲載したD104ビノは、実は自分用です。今夏胎内星祭りでこの鏡筒に出会って一目ぼれしてしまいました。昼間の景色を見ただけでただものでないことがすぐわかりました。今までそれなりにいろいろな鏡筒を見てきましたが、これだけ心に刺さった鏡筒ははじめてです。たまらず、自分用に注文してしまいました。

先月行われたスターパーティー・双望会の2日目の夜は快晴に恵まれ、そこでこのビノのファーストライトを得ました。明るい星が点像のまま明るく、あるツアイスオーナーからは「光が一点に集まり過ぎて星の色がわかりづらくなるのは、ツアイス鏡筒を除いて久しぶりの経験」というお言葉をいただきました。

コントラストも素晴らしく、夜半に南中したM42のガスが、千切れ雲のように星雲本体から離れたところに点在する様は痛快でした。期待以上の見え味に、私以外の参加者も興奮気味でした。現実に入手可能で、ビノ製作が可能な10センチとしては、D104は私が知る範囲で最高の鏡筒です。

ちなみにこの鏡筒の製作メーカーは、台湾のLong Perng(ロンパーン)という、通常は表に出てこないOEMメーカーです。販売元が別件でこのメーカーを訪問した際、偶然発掘した鏡筒だそうです。HPには赤い鏡筒バンドで紹介されていますが、販売元の意向で、日本向けは緑色となっています。