双眼望遠鏡とは?

双眼望遠鏡は天体望遠鏡を2本使って両目で見る眼視専用の観望機材です。双眼鏡の一種と言えますが、一般的に架台を必要とし、アイピース交換可能な双眼鏡が双眼望遠鏡と呼ばれています。

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双眼望遠鏡に使われる光学系

双眼望遠鏡に使われる鏡筒には次のような光学系があります。
【屈折式】最も双眼望遠鏡に向く光学系です。後述のEZMと組み合わせると市販の鏡筒がほぼそのまま使えます。中央遮蔽がないので極低倍率でも快適な観望ができます。ビノテクノはこの屈折光学系の双眼望遠鏡専門メーカーです。
【ニュートン反射式】大口径を得やすい魅力がありますが、アライメント要素が多いため調整はデリケートです。市販の鏡筒を使う場合リレーレンズ等でバックフォーカスを確保する必要があります。また、光学系の反射回数が奇数になるので裏像になります。高倍率での惑星観望がメインなら双眼望遠鏡ではなく単鏡筒+双眼装置をお勧めします。
【シュミットカセグレン/マクストフカセグレン】大口径を得やすい魅力があり、EZMと組み合わせると市販の鏡筒がほぼそのまま使えます。ただし必要なバックフォーカスを得ようとすると合成焦点距離が長くなってしまうため低倍率観望には向きません。

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双眼望遠鏡の構成部品

屈折光学系の双眼望遠鏡の場合、次のような部品で構成されます。
・ EZM(正立天頂ミラー)
・ 鏡筒
・ 鏡筒連結機構
・ 目幅調整機構
・ 架台
・ 三脚

以降、それぞれについて詳しく解説していきます。

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EZMの機能と原理

EZM(正立天頂ミラー)は双眼望遠鏡を作る上でもっとも重要な部品です。その機能は3つあります。
ひとつめは像の180度回転です。屈折望遠鏡を直視すると像は倒立像です。これを180度回転させて正立像にします。
ふたつめは見口の90度折り曲げです。これは特に高度の高い天体を見るときに必要な機能です。通常の天頂ミラーや天頂プリズムもこの機能を持っていますが、像が裏像になります。
みっつめは光路の横方向シフトです。成人の目幅は一般的に60ミリ弱から70ミリ強です。それより直径の大きい鏡筒を2本並べるとそのままでは両目で見ることができません。この横方向シフトの機能のおかげで目幅を超えた外径の鏡筒でも双眼望遠鏡を作ることができます。
EZMはこれら3つの機能をたった2枚の平面ミラーで実現しています。対物レンズからやってくる光軸に対して2枚のミラーを特定の位置に配置するとこの3つの機能が得られます。具体的には光路が次のようなベクトルになるようミラーを配置します。
前提:望遠鏡は水平、鏡筒内の光軸をX軸、X軸に水平直角方向をY軸、上方直角方向をZ軸とすると、
対物レンズから1枚目のミラーまでのベクトル=(1,0,0)
1枚目のミラーから2枚目のミラーまでのベクトル=(1,ルート2,1)
2枚目のミラーからアイピースまでのベクトル=(0,0,1)
となります。
※ この方式はメガネのマツモトの松本龍郎氏が1980年ごろ発明されました。

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EZMの構成

一般的なEZMは次の部品で構成されます。
・ 鏡筒接続部(鏡筒に接続する部分)
・ 第1ミラーケース(鏡筒側の三角ケース,底面にミラー配置)
・ 中間リング(この厚みで横シフト量を決めます)
・ 第2ミラーケース(アイピース側の三角ケース,底面にミラー配置)
・ アイピーススリーブ(アイピースをセットする部分)

鏡筒接続部の端面からアイピーススリーブの端面までの光路の距離を光路長と呼びます。鏡筒のバックフォーカスがこの光路長以上ないと合焦しません。

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EZMのアライメント要素

先述の光路のベクトルを実現するため、EZMの構成部品には次のようなアライメント要素が求められます。
・ 各ケースの頂角=60度
・ 各ミラーの入射角=反射角=60度(参考:通常の天頂ミラーは45度)

・ 第1ケースと第2ケースのねじれ角度=ARCCOS(1/3)≒70.53度


これらのアライメント要素のうちどれかひとつでもずれていると正確な「像の180度回転」と「見口の90度折り曲げ」の両立ができません。

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EZMのX-Y光軸調整ネジ

右側EZMの第1ミラーケース底面にはX-Y光軸調整ネジがあります。これは双眼望遠鏡を両目で見たとき左右の像を一致させるために使います。X側の調整ネジを回すと右側の像はX(左右)方向に移動し、Y側の調整ねじを回すとY(上下)方向に移動します。
ただしこれは先述のアライメント要素のずれを修正するための機能ではありません。この調整ネジはユーザーの個体差や、EZMとアイピースのセンタリングずれなどを修正するためのものです。
人間の眼球位置は左右対称でなく多かれ少なかれ非対称なので、ピント位置が人によって異なるのと同様、左右の像が一致する位置も人によって異なります。それをこの調整ネジで修正します。
この調整ネジを使うことで先述のアライメント要素はずれることになりますが、その調整量が微小(調整ネジ±1/3回転程度)なら「像の180度回転」への影響はわずかです。
弊社製EZMを使って双眼望遠鏡を自作された際、この調整ネジを半周以上回さないと像が一致しないときはEZM内部のずれを疑う前にまずはその他のアライメント(鏡筒の平行度や接眼部のたわみなど)をチェックしてください。
また、実際に双眼望遠鏡を見ながらこの調整ネジを操作するとわかりますが、調整ネジの操作によって左右の像がある範囲に近づくと突然一致して見えます。これは人間の脳の働きによるものです。この脳の働きは多少のずれを許容してくれる一方で、目合わせによる精密な調整を困難にしています。

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視野回転の一致

先述のEZMのアライメント要素や後述の鏡筒平行のどれかがずれていると、X-Y光軸調整ネジで像の視野中心を一致させても視野の回転角度が一致せず不快な見え方になります。この不一致は星よりも昼間の遠くの景色、特に水平あるいは垂直な構造物を見たときに気づきやすいです。敏感なユーザーは0.5度のずれでも気づくようです。
この不一致をX-Y光軸調整ネジで調整することはできません。自作EZMによる双眼望遠鏡でこの視野回転の不一致が発生した場合、EZMの各アライメント要素や鏡筒の平行、接眼部のたわみを再チェックしてください。
特にもっともこの視野回転に影響を与えるのはEZMの第1ケースと第2ケースのねじれ角度です。このねじれ角度のずれ量と視野回転量はほぼ同じになります。つまりねじれ角度が0.5度ずれると視野回転量も179.5度になったり、180.5度になったりします。ちなみに第1ケースと第2ケースを接続するリングの直径が60mmの場合、0.5度はリングの周上で0.26mmに相当します。かなりデリケートであることが分かっていただけると思います。
次に影響を与えやすいのは鏡筒の平行や接眼部のたわみです。これらがずれている状態でX-Y光軸調整ネジを使って無理やり像の視野中心を一致させると必ず視野回転の不一致が発生します。

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鏡筒選択時の注意

どの市販鏡筒を選択して双眼望遠鏡を作るかはオーナーにとって一番の関心事です。光学性能が優秀であることはもちろんですが、次のような点にも注意が必要です。
【接眼部の剛性】EZMは比較的重く、またアイピースの位置が接眼部の軸中心からオフセットされるので、十分なたわみ剛性、ねじれ剛性が必要です。
【バックフォーカス量】EZMの光路長より10ミリ以上長いバックフォーカス量が望ましいです。市販鏡筒で十分なバックフォーカス量があるモデルは少ないです。
【鏡筒の最大外径】最大外径でEZMの必要光路長が決まるので、小さい方が望ましいです。3枚玉の対物レンズの場合最大外径が大きいのでバックフォーカス量の足らない場合が多いです。
【鏡筒の真円度】最近のモデルはまず大丈夫ですが古いモデルではときどき板を丸めて作ったものがあります。このような鏡筒は平行にセットするのが難しいので双眼望遠鏡には向きません。

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鏡筒連結機構

2本の鏡筒を連結する機構にとってもっとも大事な機能は鏡筒を平行に保持することです。先述のとおりここで発生した非平行をEZM側で調整することができないからです。
自作の双眼望遠鏡で鏡筒連結部にメーカー純正の鏡筒バンドを使う事例がありますが、取付け穴のガタが大きいので注意が必要です。例えばよくある鏡筒バンドの取付けは35mmピッチのM8ボルト2本です。この取付け穴は概ね直径9mmなので、計算すると最大1.6度右か左に振れます。さらに反対側の鏡筒が反対側に振れると最悪3.2度の非平行になります。さすがにここまでひどい状態の取付けにはしないと思いますが、できるだけ精密な平行状態が保てるよう工夫が必要です。

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目幅調整機構

人によって目幅は異なるので、双眼望遠鏡には目幅を調整する機構があります。その方式には次の2種類があります。
【鏡筒スライド方式】鏡筒連結機構に鏡筒そのものを平行移動させる機構を組み込んで目幅調整を行う方式です。鏡筒がそれほど重くない小口径から中口径(13cmぐらい)に適しています。この機構には常に鏡筒の平行を保つ剛性と精度が必要です。目幅を変えてもピント位置が変わらないので初心者にも扱いやすい方式です。
【ヘリコイド方式】EZMの第1ミラーケースと第2ミラーケースの間に直進ヘリコイドを取り付けて目幅調整を行う方式です。この部分で目幅調整を行うので鏡筒連結機構はシンプルになります。ただし第1ミラーケースと第2ミラーケースのねじれ角度が常に一定に保たれるよう、ヘリコイドにはそれなりのねじれ剛性と精度が必要です。目幅を変えるとピント位置が変わるため操作には多少の慣れが必要です。

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架台

双眼望遠鏡は見口を常に水平に保つ必要があるため、架台は経緯台が適しています。赤道儀に載せる場合は左右の鏡筒を水平に保つ大がかりな機構が別途必要です。
双眼望遠鏡専用の経緯台は市販されていませんが、使えそうなものを以下に紹介します。
【笠井トレーディング AZ-3経緯台】シンプルな片持ちタイプの経緯台です。微動装置付きなので高倍率での手動追尾も可能です。
【iOptron AZマウントPro】片持ちタイプの自動導入経緯台です。自動追尾もできるので高倍率での観望も可能です。
【ロスマンディ経緯台 AZ8】剛性の高い片持ちタイプの経緯台です。片側で15kg搭載可能です。
【SkyWatcher AZ-EQ5GT】赤道儀にも経緯台にもなる架台です。双眼望遠鏡を取り付ける場合は経緯台モードで使います。自動導入&自動追尾が可能です。
【ケンコートキナーAZEQ6GT】前述のAZ-EQ5GTの1サイズアップ架台です。
【ビクセンHF2経緯台】10cmぐらいまでに使えるシンプルなフォーク式経緯台です。使用例も多いです。
【国際光器ブルドッグ経緯台】剛性の高いフォーク式経緯台です。エンコーダ取り付けが可能なので導入支援が使えます。

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三脚

三脚は一般的な望遠鏡用と同じく剛性の高いものを選ぶべきですが、それ以外に双眼望遠鏡用として注意しなければならないのは設置半径です。
双眼望遠鏡は三脚中心に対して重心がオフセットされる場合が多いので、設置半径が小さいと転倒の危険があります。三脚の先端(石突)が描く三角形の内接円に重心が収まるようなサイズの三脚を選んでください。
また脚を伸ばしたときはよくても縮めたとき重心が外になってしまう場合があります。特に双眼望遠鏡を架台に載せたまま脚を縮めて保管する際注意してください。

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反射面の種類NEW

ビノテクノでは、次の3種類の反射面を用意しています。
【アルミメッキ+増反射コート】もっとも一般的な反射面です。ビノテクノで販売しているアルミメッキミラーは、可視波長域内全体で平均93%、暗順応時の主要可視波長域(450-550nm)で95%以上の反射率があります。
【誘電体コート】誘電体膜と呼ばれる特殊な膜を多層に積み重ねて高い反射率を得る、アルミメッキや銀メッキのような金属蒸着とはまったく異なる反射メカニズムのミラーです。表面は極めて硬く、耐久性は半永久的です。ビノテクノで販売している誘電体コートミラーは、入射角60度において、Rs(S偏光)では400-700nmの範囲で99%以上の反射率、Rp(P偏光)とRave(平均)では400-650nmの範囲で98%以上の反射率となっています。ただし誘電体コート固有の特性で、この波長の範囲外では急激に反射率が落ちます。
【銀メッキ】銀メッキの特長は赤色の反射率の高さです。赤側可視域限界の700nm付近では、ビノテクノで販売しているアルミメッキミラーの場合91%程度の反射率ですが、銀メッキミラーは97%以上の反射率があります。ただし人間の目は、暗いところでは緑色をピークにして赤側の感度が急激に落ちます。したがって実際の観望では、他のミラーとの見え方の差はごくわずかですが、『完璧』を求める天文ファンにはお勧めの反射面です。
参考データ:
アルミメッキ+増反射コートミラーの反射率データ
誘電体コートミラーの反射率データ
銀メッキミラー反射率データ
肉眼の比視感度

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弊社の製品ポリシー

弊社の製品はユーザーによる調整を最小限にしてあります。ユーザーが調整するのは目幅や眼球位置など個人によって異なるアライメントのみが対象で、それ以外は調整レスを目指しています。
それを実現するため、ミラーのアライメント以外はすべて部品精度で保証してあります。ケースのねじれ角度も70.53度でしか組み合わせできない構造になっています。ミラーだけは厚みも表裏の平行度もばらついているので、弊社独自の方法で精密にアライメント調整して出荷しています。
「調整できない構造」はユーザーにとって不安かもしれませんが弊社の考えは逆で「調整できる=ずれる可能性がある」です。最近の工作機械は人間の目合わせよりもはるかに高精度な金属加工が可能です。EZMを使った双眼望遠鏡の場合アライメントのねらい値が明らかなので、金属加工でアライメント精度を確保して調整レスにした方が安心して使えると弊社は考えています。
この考え方は弊社代表が30年以上従事してきた設備設計の経験から来ています。調整箇所の多い設備は立ち上げに苦労します。立ち上げ後もトラブルが発生すると疑わしい個所が多いので復旧に時間がかかります。多くの経験を通して得た教訓は「部品精度で出せるアライメント精度は『部品精度』で確保し、部品精度で出せないアライメントのみ『調整』で保証する」です。
そしてこの『調整』を行う場合、以下のことに注意しています。
【要求精度を決める】各アライメントの要求精度は全体の目標精度から決めます。例えば弊社双眼望遠鏡の視野回転の不一致角度は0.5度以下を目標としています。それを実現するためのアライメントは約10か所あるのでそれぞれのアライメントの要求精度を±0.05度としています(実際には視野回転不一致の角度は各精度ばらつきの単純なたし算にはならず打ち消しあう要素もあります)。
【測定器を使う】要求精度という数値目標に対して、それより感度の高い測定器を使います。仮に目標が±0.05度なら最悪でも±0.01度が見分けられる測定器を使います。これぐらいの精度になると目だけで合わせるのは不可能です。
【調整箇所が複数ある場合それぞれについて調整する】ある調整箇所のずれを他の調整箇所でカバーするのは困難です。それぞれについて目標精度を確保するよう調整します。
【調整と確認を区別する】例えば双眼望遠鏡を覗いたとき右の視野の水平線と左の視野の水平線が視野回転なく一致しているというのは『確認』であって『調整』ではありません。一致して見えない場合、水平線の一致具合を見ながら調整するのではなく、各アライメントの精度を計測器等で再確認します。

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