クレードルのあたりまえ

クレードル(鏡筒連結部)は、双眼望遠鏡を構成するシステムの中で、EZMと同じぐらい重要なパーツです。特に目幅調整機構を有するクレードルは、その完成度が観望時の操作性に大きな影響を及ぼします。

目幅調整時にクランプ(固定)、アンクランプ(解除)の操作が必要であったり、目幅調整時に左右の像の一致が崩れたりするのは、煩雑で不快です。ひとりで見ているならこの操作も一晩に一度きりですが、観望会などで仲間にも見せようとすると(映像が楽しいのでつい見せたくなります!)、

「ちょっと待ってね、ここを解除して、このハンドルを回して、、、どう?目幅合う?」

「うーん、合ってるのか合ってないのか、、、左右の像がずれてるから合ってない?ハンドルから手を放すと合う。。。うーん、まあこんなもんかな。固定するのはどこだっけ?」

といったことが頻繁に起こります。クレードルの完成度が高ければ、本来しなくていい苦労です。

「双眼望遠鏡って、ちゃんと合えば楽しいけど、合わせるのが大変」「難しい」「割と面倒くさい」という声を時どき聞きますが、その原因のほとんどはクレードルの完成度にあります。

ビノテクノ製クレードルは、目幅調整時も左右の平行がずれないよう、十分な剛性と精度が確保されています。固定/解除操作も不要です。はじめて操作される方でも安心して使えます。貴重な観望時間をつまらない作業で浪費してほしくないと、ビノテクノは願っています。

日本の空が暗くなった?

あまり実感はありませんが、日経ビジネス9月25日号によると、日本の夜の明かりは減少傾向にあるそうです。ただしその理由は国民の省エネ意識の向上ではなく、夜の経済の衰退だそうです。人口減少、高齢化、健康志向、SNSの普及などで夜遊びする日本人が減ってしまったため、夜の歓楽街はじり貧、24時間営業だったお店も深夜は閉店するようになりました。

空が暗くなるのは天文ファンにとって喜ばしい傾向ですが、夜の経済の衰退は、回りまわって昼の経済にも影響するそうです。手放しで喜んでいいものか、微妙です。

双眼望遠鏡に適した鏡筒

口径

移動観測に使うなら9センチから12センチぐらいがお勧めです。

これより小さい口径は鏡筒単価が安いため、EZMとクレードルの費用(合わせて30万円弱)に割高感が出てしまいます。ただしそこに目をつぶるなら、6~8センチの双眼望遠鏡もおもしろいです。

一方13センチ以上のアポクロマートは鏡筒が重いため移動観測が大変です。架台もほとんど特注になります。

レンズの種類

アポクロマートがお勧めです。低倍率では針で突いたような気持ちの良い星像を見せてくれます。よい架台を使えば中倍率、高倍率も楽しめます。

アポクロマートの中でも2枚玉と3枚玉があります。もちろん3枚玉の方が高級品ですが、多くは写真性能を意識したモデルで、眼視用にはオーバースペック気味です。さらにいうと、レンズセルが大きいため、2本並べたときのピッチが大きくなり、より長いバックフォーカスが必要になります。重さも2枚玉の1.5倍ぐらいあります。もちろんこれらの問題がクリアできるなら、3枚玉は最高級の双眼望遠鏡になります。逆に言えば、2枚玉モデルは双眼望遠鏡用の鏡筒として、コストパフォーマンスに優れています。

低倍率専用と割り切るなら、15センチクラスのアクロマートも面白いです。口径が大きくても意外と軽量で市販の架台が使えます。口径が大きいので暗い天体の観望に有利です。

バックフォーカス

10センチクラスまでなら160mm以上欲しいです。ところがこれだけのバックフォーカスが確保されているモデルは、どちらかといえば少数派です。メーカーカタログにこの数値が明記されていない場合も多いです。お客様からご要望があれば、ビノテクノからメーカーへ問い合わせをいたします。

バックフォーカスが足らない場合、鏡筒を切断する方法もありますが、望遠鏡メーカーは基本的に対応しません。また、望遠鏡メーカー以外で切断加工した場合、メーカーの保証対象外となります。光学性能の保証も含めた切断加工可能の業者がいないので、ビノテクノでは切断加工はお断りしています。

接眼部

ラックピニオンまたはクレイフォードタイプがお勧めです。ただし安っぽいものはだめです。

ヘリコイドはEZMの自重で発生するトルクで操作が重くなるのでお勧めしません。

ビノテクノのおすすめ鏡筒

ビノテクノで製作可能なお勧め鏡筒は次の通りです。(バックフォーカス確認済み)

・ Capri102ED(笠井トレーディング)

・ Blanca102SED(笠井トレーディング)

・ FC-100DL(タカハシ)

双眼望遠鏡のあるべき姿

昭和30年代に運転免許を取得した父によると、当時学科試験に『構造』という科目があったそうです。自動車のエンジンや変速機、ブレーキなどの知識を指します。私が取得した昭和50年代にはすでにこの学科はなくなっており、構造科目で苦しんだ父からうらやましがられました。

この科目がなくなった理由は、自動車という製品が進化したからにほかなりません。昭和30年代はまだ自動車の品質が低かったため、ユーザーに構造の知識は必須でした。多少の不具合は自分で直せないと使えない製品でした。逆に言えば、ユーザーの構造理解が前提の製品でした。

もちろん今の自動車は違います。構造を知らなくても操作はできます。もちろん構造の知識はあって邪魔にはなりません。でも必須ではありません。ユーザーが覚えるべきは正しい操作です。

これを双眼望遠鏡に照らせばどうでしょう?

ユーザーの原理・構造理解が前提になっているなら、双眼望遠鏡という製品はまだまだ進化の余地があります。大半のユーザーは原理・構造を理解したいのではなく、両目による観望を楽しみたいだけです。

目幅調整と、視野一致のためのX-Y微調整の方法さえ習得すれば、あとは普通の望遠鏡と同じように使える、これがビノテクノが目指す双眼望遠鏡のあるべき姿です。