与那国島で星を見てきました

6/21-25の日程で与那国島(よなぐにじま)へ行ってきました。少し日が経ってしまいましたが、以下はそのレポートです(長文注意)。

与那国島ってどこ?

Googleマップより
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与那国島は日本最西端の島です。ご覧の通り沖縄本島よりも台湾の方がずっと近いです(台湾まで約110km、沖縄本島まで約500km)。ここが日本の領土であることが不思議なぐらいです。

古代のロマン

この島については行く前から少し思い入れがありました。

3万年前、ユーラシア大陸にいたホモ・サピエンスは、いくつかのルートで日本列島に到達したと言われています。そのひとつが台湾ルートです。そのスタートが台湾から与那国島になりますが、本当にそれが可能か、2016年に実証実験が行われました。「110kmなんて楽勝じゃん」と思われるかもしれませんが、台湾と与那国島の間には世界有数の高速海流「黒潮」が流れています。簡単ではありません。一つ間違えると「航海」ではなく「漂流」になってしまいます。実証実験では、巨木から削り出した丸木舟で見事黒潮を横切ることが出来ました。小さいころ読んだハイエルダールの「コンチキ号漂流記」を彷彿とさせる話です。その顛末が書かれた本(「サピエンス日本上陸」)を数年前に読んだことがあり、それ以来私の中では特別な島となっていました。

アクセス

与那国島には小さいながらも空港があります。行きは中部国際空港(セントレア)→那覇空港→石垣空港→与那国空港、帰りは与那国空港→那覇空港→セントレアという乗り継ぎで行ってきました。

着陸直前の景色
当然のようにプロペラ機
シンプルな空港施設

きちんと調べたわけではありませんが、どうも自衛隊の基地がある離島には概ね空港があるようです。もちろん与那国島にも自衛隊の基地があります。台湾有事の際には最前線になると言われています。ただし島内の人に聞いた話では、与那国島の自衛隊の規模はそれほど大きくなく、監視レーダーも高性能ではないので、ここをすっ飛ばして沖縄本島や九州を攻撃するのではとも言われています。

機材

今回の機材はこれです。BINOKIT+9cm 3枚玉SDアポ対物レンズユニット。架台はノースマウント風のハーフピラー付き自作フリーストップ架台です。クランプを緩めても軸が垂れないのと、完全クランプできるので、オリジナルを超えたと自負しています。アイピースはハイペリオンアスフェリカル36mmのみを持参しました。

機材は事前に宿へ送ったのですが、与那国島にはヤマトも佐川も営業所がなく、荷物を送る手段は、日本郵便のゆうパックのみです。郵便局は土日休みが絡むと時間がかかるので、早めに発送しました。ちなみに帰りはJTAが空港で荷物を集荷してくれることがわかったので、空港でJTAに預けました。この荷物は私と同じ飛行機で運ばれ、帰宅翌日、佐川急便が自宅に届けてくれました。仮に帰りもゆうパックで送った場合、預けた翌日以降の飛行機に載せるため、こんなに早く荷物を受け取ることができませんでした。

宿に関する悩ましい問題

離島観望で毎回運に任せるしかないのが、宿の環境です。

観望予定地と宿が近いかどうかは事前調査でわかりますが、問題は、部屋から機材が出し入れしやすいかということです。こればかりは行ってみないと分かりません。

観望は夜間の行動になるので必ずレンタカーを借ります。しかし日中の車内はかなりの高温になるため、機材は毎晩その都度部屋から出し入れします。さらに機材は鏡筒、架台、その他と最低3つに分かれるので、部屋と車を3往復以上することになります。つまり、部屋から車までの距離、運ぶ通路の広さ、段差の有無などが重要です。

宿泊したむんぶステイ・ナンタ浜

今回の宿は運良く出入り口に近い部屋だったので、機材運搬も割と楽でした。これが運が悪いと、出入り口から遠い部屋が割り当てられ、運搬に苦労します。このことは宿の予約時に説明してもまず理解してもらえません。例えば2年前に行った宮古島では、「望遠鏡の出し入れがあるから1階希望」と伝えてあったにも関わらず、行ってみたら4階の部屋で、出し入れにずいぶん苦労しました。はじめて行く観望先では常にこの問題がつきまといます。うまい解決方法がいまだ見つかりません。

観望場所

観望は島の南東部にある「立神岩(たちがみいわ)展望台」で行いました。この場所は、以前ここを訪れたことがある知人に教えてもらいました。

よなぐに観光ガイドブックより
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下の写真が展望台の駐車場です。出入りしやすく十分な広さがあります。南側の海が一望できるベストなロケーションです。

立神岩展望台駐車場

この奥にはトイレもあります。

立神岩展望台のトイレ

また、この展望台から数百メートル離れた場所にも立神岩展望台があります。こちらは狭くて望遠鏡を出すには不向きな場所ですが、昼間訪れると奇岩・立神岩を間近に見ることが出来ます。

立神岩
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与那国島の星空

本州より一足先に梅雨明けしているこの時期の与那国島の星空は、昨年訪問した西表島と同等の最高ランクでした。天の川に入り組む暗黒帯が鮮明に見え、常にどこかに雲のある空でしたが、スコールに見舞われることなく、4晩とも観望を楽しむことが出来ました。

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上の写真は固定撮影で撮ってきたカラー写真をモノクロ化した画像です。肉眼で見た与那国島や西表島の天の川はこんな感じです。天の川の暗黒帯を挟んだ上側の淡い部分もこの写真のようにはっきり見えます。

今回試したかったことのひとつは瞳径6mmでの観望です(経緯はこちら)。本当は瞳径7mmを狙いたかったのですが、よいアイピースを見つけることが出来なかったので、36mmのアイピースを使って瞳径6mm、15倍で観望しました。つまり15X90双眼鏡での観望です。

夜薄明が終わった頃、立神岩展望台に到着すると、いきなりすごい天の川が見えています。勢い込んで機材を空に向けると、視野いっぱいの星粒が目に飛び込んできました。突き抜けるような爽快感です。まずはさそり座、いて座付近、そこから天の川沿いにたて座、わし座、はくちょう座と15X90双眼鏡を上に向けていきました。その付近にあるメシエ天体も総ざらいです。

西の空に沈みかけているかみのけ座やおとめ座の銀河にも向けてみました。こちらはさすがに倍率が低すぎて、あるのが分かる程度です。今回荷物を最小限にするため、アイピースは1種類しか持ってこなかったのですが、50倍程度が出せるアイピースも持ってくるべきだったと後悔しました。瞳径6mmの観望はそれなりにエキサイティングでしたが、どうも私の好みは中倍率での星雲星団観望のようです。そのことにあらためて気づきました。

余談ですが、4晩ともここで星見の人とは一度も会いませんでした。もったいない!

星座双眼鏡は必須アイテム!

笠井トレーディングHPより

15X90双眼鏡とは別に今回も活躍したのが星座双眼鏡です。これで水平線近くの星座を観察しました。おおかみ座の明るい星の多さも意外でしたが、最も心に残ったのは、いて座の南にある「みなみのかんむり座」でした。ハート型に並んだ4等星の配列がとても美しく印象的でした。緯度が低く、しかも水平線まで星がしっかり見える島ならではの観望対象です。

ステラナビゲータ画面より
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星野写真

写真も少し撮ってきたのでアップしておきます。画像処理はしてありません(というかできない(笑))。15秒の固定撮影でここまで写るのはすごいです。今回はソフトフィルターを使ったので、星座の形が分かりやすくなりました。

夏の大三角
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夜半に直立した天の川
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撮影データ(すべて共通):
カメラ 富士フィルムX-T5
レンズ 18-55mmズーム(撮影焦点距離 18mm)
絞り F2.8
ISO 12800
露出時間 15秒(固定撮影)
プロソフトンクリア(W)使用

ある晩、観望から宿へ帰る途中、道の真ん中に何かがいました。車から降りて確認してみるとヤシガニでした。手のひらぐらいの大きさです。昼間は見かけなかったので、夜行性と思われます。危うくひくところでした。

道路の真ん中で私を威嚇するヤシガニくん

ビーチ

滞在中に参加した島内観光ツアーのガイドさんによると、与那国島は3回沈んで3回隆起した地形だそうです。そのせいか島中に断層や崖が点在しています。砂浜ビーチは少なめです。ちなみにビーチには監視員がいないので、海水浴は自己責任です(思い起こせば宮古島のビーチでも監視員は見かけませんでした)。

ナンタ浜

下の写真は映画「Dr.コトー診療所」のロケ地になった診療所の眼の前に広がるビーチです。

比川浜

実は滞在中に参加した乗馬ツアーで、馬にまたがってこのビーチ(比川浜)に入りました。遠浅の海なので溺れる心配はありません。ところが海に入ると馬も気持ちが良いのか、モリモリ排泄します。数頭分の馬糞が海に浮かんできれいな海が台無しでした(笑)。

ウマに乗ってご機嫌の服部

最西端の地

最西端の島に来たので、島の最西端も行ってきました。

最西端の碑

この石碑がある西崎(いりざき)灯台は断崖絶壁の上に立っています。

海から見た西崎灯台(シュノーケルツアーの移動中に撮影)

与那国島には3つの集落がありますが、この石碑のある久部良(くぶら)地区はまさに日本最西端の集落です。したがってここにある施設はすべて「日本最西端の」という修飾語がつくそうです(笑)。曰く、「日本最西端の駐在所」「日本最西端の郵便局」「日本最西端のカフェ」「日本最西端の信号」などなど。

アダンの実

西表島でも見かけましたが、アダンという植物の実がなっていました。形はパイナップルに似ていますが、食用には適さないようです。

ところが近づいてみると、アルファベットの筆記体のような文字で、何か書いてあるように見えます。でもよくよく見ると、ただの模様でした。紛らわしい!

アルファベットのように見えるアダンの実の模様

テキサスゲート

与那国島には固有種のウマ「ヨナグニウマ」がいます(乗馬ツアーで乗ったのもこれ)。サラブレッドより一回り小さいです。

島の一角が牧場になっていて、上の写真のとおり柵がありません。そのためときどき道路に出てきて道路を塞いでしまいます。

道幅いっぱいに広がるヨナグニウマ

こういうときはウマが引っ込むのを待つか、こちらが引き返すかのどちらかです(このときはUターンして引き返しました)。

とはいっても、ウマが道路伝いに島内全域を闊歩すると困るので、牧場を貫いている道路の両端に「テキサスゲート」と呼ばれる溝を設置して、ウマの行動範囲を制限しています。

テキサスゲート

溝のピッチがちょうど蹄(ひづめ)のはまる大きさになっていて、こういう溝に出くわすとウマは本能的に引き返すそうです。

島内の食事

外食できるお店がそれほど多くなく、しかもキャパが小さいので、少なくとも晩ご飯は予約必須です。

あぐー豚しゃぶしゃぶ@むんぶテラス
刺身の盛り合わせ@海響(いすん)

昼ご飯は予約なしで食べてきました。

沖縄そば@さとや
フライ定食@漁協食堂

おわりに

シュノーケリングのガイドさんから聞いた話ですが、こういったアクティビティに従事する人たちは、ほぼ全員移住者だそうです。このガイドさんも兵庫県出身でした。
この話は西表島でも聞きましたし、父島でも聞きました。ではなぜ島で生まれた人たちがこういう仕事に就かないのか?
このガイドさんによると、島で生まれ育った人たちにとっての「海」は、遊ぶところではなく、仕事をするところ、という認識だからではないか、とのことでした。なるほどと思わせる分析です。

そんなこんなで今回も大収穫のツアーでした。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。

おわり

沖縄地方の象徴的な花ハイビスカス

Ascar203ビノ納品完了

Ascar製品の最大口径203mm鏡筒(3枚玉アポ)による双眼望遠鏡が完成したので納品に立ち会ってきました(三重県内)。元請けはアイベル様で、ビノテクノは正立ミラー部とクレードル部のみを製作しました。据付作業は昼過ぎから始まっていましたが、、私は夕方から参加し、左右鏡筒の平行の最終調整を行いました(とはいってもほとんど無調整で左右が一致しました)。

据付完了後の勇姿

架台は中央光学製です。写真で見ると鏡筒が小さく見えますが、それは架台が大きいからです。鏡筒の実物は巨大です。

フードのロゴもかっこいい!
接眼部付近

第1ミラーがラージミラー仕様の特注EZMです。

納品前に撮影したクレードル部

最近まで大口径用特注クレードルは精密加工した鏡筒バンドを用意していましたが、今回はCRDL-miniの技術を移植した設計にしました。左側が目幅調整ステージで、右側が上下左右微調整ステージです。これにより、鏡筒に付属している鏡筒バンドやアリガタ金具が使えるようになりました。このコストダウン効果は大きいです。
ちなみにアリミゾ金具はMORE BLUE製です。アリガタ金具(写真のオレンジのプレート)が長いので、片方の鏡筒あたり2個使っています。
また徒(いたずら)にアルミプレートの厚みを増さず(最大厚み15mm)、要所要所にリブを入れて剛性を高め、軽量化が図ってあります。

大口径の双眼望遠鏡製作は数年に一回の仕事ですが、失敗が許されないのでそれなりに緊張します。その分無事完成すると感慨ひとしおです。

EZM調整原点

これまで特に説明してこなかったのですが、EZMペアの右側用に取り付けてあるX-Y調整ネジには「調整原点」が施してあります。

EZMはレーザーポインターを使った自家製のアライメント調整治具でミラー角度を精密調整して出荷しています。このときのX-Y調整ネジの位置を覚えておくため、ネジの頭にベビーグラインダーで、EZM筐体底面の合いマークと向かい合う位置に調整原点を施しています。

実際に双眼望遠鏡に取り付け、両目で見ながら調整すると、調整原点と合いマークが多少ずれることがありますが(概ね1/6回転以下)、その原因は、アイピース取り付けのガタとか、ドロチューブのわずかな傾きです。弊社製クレードルは鏡筒平行が精密に確保されているので、ずれる原因になることはありません。

ビノテクノ創業以来今まで一度も「回しすぎて原点がわからなくなった」というご連絡をいただいたことはありませんが、先日「このマークは何?」というご質問をいただいたので、この機会に紹介させていただきます。

ちなみにEZM筐体底面の中央に貼ってあるテプラ「AG」は銀メッキミラーを表しています。「AG」の他に「AL」がアルミメッキミラー、「DI」が誘電体コートミラーを表しています。

9/14 星をもとめて出店します

京都るり渓で行われるをもとめてに、ビノテクノは今年も出店します。

開店時間は、
9/14(日)12:00-22:00ごろ
の予定です。9/15(月)の出店はありません。

この星まつりは特に関西以西の地域の方に会える貴重な機会です。みなさんにお会いできることを楽しみにしています。

展示機材や特価販売アイテムは日が近づいたら案内させていただきます。

昨年の出店風景

ステッカー制作しました

BINOKITのオプション、9cm 3枚玉SDアポ対物レンズユニット用に、ステッカーを制作しました。

これからご注文いただいた分にはこのステッカーを貼って出荷します。

すでにご購入いただいた方で、このステッカーをご希望の方はご連絡ください。無償で差し上げます。

胎内星まつり今年も出店します

8/22-24開催予定の胎内星まつりに今年も出店します。

今年は日程発表が例年より早く、そろそろ宿だけでも予約しておこうかとHPをチェックしたら、いつの間にか日程が発表されていました。「しまった!」と思って定宿の中条グランドホテルの空き部屋を確認したら、悪い予感通りすでに満室。新発田駅近くの安宿がかろうじて空いていたのでなんとか出店できる目処が立ちました。

胎内星まつりに限らず星まつりはなかなか晴れないのですが、今年はほぼ新月なので、とりわけ晴れてほしいと願っています。

昨年の出店準備風景

FL-102S接眼部換装

双眼望遠鏡の案件ではありませんが、ビクセンFL-102S鏡筒の接眼部換装の依頼があったので紹介させていただきます。

ご存じの方も多いと思いますが、FL-102Sの対物レンズはF9と長いこともあって、切れ味は抜群、製造中止となった今でも眼視ファンには根強い人気があります。ところがこの優秀な対物レンズに不釣り合いなぐらいオリジナルの接眼部がしょぼく、実にもったいない仕様の鏡筒となっています。

今回のご依頼は、この接眼部をバーダー製ダイヤモンドスチールトラック接眼部(屈折用)BDS-RTに換装するという内容でした。簡単に言えば、これを取り付けるためのアダプターリングを製作したのですが、問題はその取り付け方法です。

今どきの接眼部の取り付け方法は、鏡筒チューブ末端に施されたネジによるものがほとんどですが、この鏡筒は3方向からのネジ止めです。この方式、加工コストは低いのですが、接眼部を鏡筒チューブに密着させるのが難しいです。

よくよく調べてみると、オリジナルの接眼部固定に使われているのは通常のメートルねじではなく、いわゆるタッピングビス(先端が細く、根元が太いネジ)で、しかも、おそらくわざとだと思いますが、鏡筒チューブの穴位置と接眼部側のメネジの位置が、0.5mmほどずらしてあります。このズレを利用して接眼部を密着させているようです。

しかし新規で製作するアダプターリングではタッピングビスを使わず、M4サイズのボルトを使うことにしました。ただし普通にボルトを締め上げると、平面であるボルトの座面と、円筒面である鏡筒チューブが密着せず、鏡筒チューブが変形してしまいます。このため、当たり面を円筒面に仕上げた小さいアルミパーツを特注で3個用意し、鏡筒チューブとボルトの間にはさみました。これによって、接眼部を密着させた状態でしっかり締め上げることができました。

下の写真は換装後の全体写真です。Mrak-X赤道儀に載ったFL-102S鏡筒が実に凛々しく見えます。

このようなご依頼も対応しますので、気軽にご相談ください。

BINOKIT+9cm対物ユニット インプレッション

先日紹介したBINOKIT on HF2経緯台のオーナー様から、初観望のレポートをいただいたので紹介させていただきます。

昨日夜からビノで初めて本格的に観望することができました。
春霞みはあったものの、一晩中快晴で楽しめました。
まず見たのは西に沈みかけのぎょしゃ座のあたりです。
冬の天の川の微光星が視野いっぱいに広がり、思わずため息が出る美しさでした。
そのまま流していくとM37からM36、M38が次々と視野に入り、周囲の星の中に島のように浮き上がっている姿が印象的でした。
この日ベストの対象はM44でした。M44は大きすぎ、長焦点の望遠鏡ではあまり美しく見えたことが無く、好きな対象ではありませんでした。
ところが、アスフェリック31mmとの組み合わせでちょうどよく視野におさまり、まるで黒い布に真珠をばらまいたような姿がとても美しく、この日何度も見てしまいました。
M3、M5、M13などの球状星団も手持ちの4cm程度の双眼鏡では「存在確認」程度の見え方だったのが、さすがに9cmもあると特徴的な姿をはっきり確認することができ、双眼視ということもあり低倍率でも意外と大きく感じました。今まで小さい対象という印象のあった球状星団の視直径は意外と大きいことに気づかされました。
2時ごろになると月とともに夏の星座が顔を出し始め、半月によって夜空は一気に明るくなってしまいました。
それでも夏の天の川にビノを向けると、星団や星列が視野いっぱいに広がり、壮観な眺めでした。
アルビレオはちょうどよい倍率に感じました。色の対比が美しく、大量の微光星をバックに夜空に浮かぶ姿に息をのみました。

以下、ビノと架台のレビューです。
ビノの第一印象は、この大きさにしてよかったということです。
対空双眼の難点は大きくかさばるという点かと思いますが、9cmの口径を欲張らないコンパクトなサイズで、とても扱いやすいです。
自宅のベランダが狭く、長い屈折鏡筒は使えないのですが、このサイズなら出すことができました。
ビノを持ってベランダと家の中を往復するにも取り回しがよく、これならちょっとした観望でも出す気になれます。
また、収納スペースをとらないのも便利です。フードを縮めてEZMを外すと長さ41cmほどになり、そのへんにある普通のサイズのラックに無理なく置くことができました。
さらに、運搬にも好都合でした。コンパクトカーの狭い荷室にも縦向きですっぽり収まるサイズで、載せ方をあれこれ悩まなくてすみました。
口径は9cmと限られているのでDSOは苦手な対象ですが、このビノと20cm反射などの大口径の鏡筒と一緒に持っていくのがよいと感じました。
その点、このビノはコンパクトなので、昨日の遠征ではビノと20cm反射を両方持っていくことができました。これが10cmを超えるビノだと私の車ではかなり厳しいと思いました。
ビノは低倍率のアイピースで固定で使い夜空を流し、単眼の大口径でDSOを見るといった組み合わせの相性がよさそうです。
ちなみに私の妻と一緒に観望に行ったのですが、ビノが楽しいようで私と取り合いになりました(笑)。
妻は単眼の望遠鏡はあまり楽しくないようで、今までは椅子に座って手持ちの双眼鏡ばかり使っていたのですが、このビノは「いいね!」と言ってもらえました。
眼幅やXY調整も初めての使用でもあっという間に調整することができ、調整が難しそうだという心配は杞憂でした。

次に架台です。
フォーク式は初めて使いましたが、T字の経緯台などに比べて全体がコンパクトに収まり、想定通り狭いベランダでも使えました。
覗きながら夜空を流すときに顔の位置を大きく動かさなくてよいのも、地味ながら利点に感じました。
当方はビクセンのASG-CB90カーボン三脚と組み合わせてみましたが、椅子に座って見るのにちょうどよい高さになり、ビノを十分支える強度がありながら軽量・コンパクトなので相性がよいと感じました。ビノと架台で20kg以内に余裕で収まり、平日にちょっと出すという使い方も十分できそうです。
試しに5mmのアイピースで木星を見てみましたが、普通のシーイングの日なら十分楽しめる解像感がありました。
ただ、HF2経緯台は低~中倍率の機材を想定しているようで、高倍率では特に高度軸のフリクションが一定以上あるので微動装置が欲しくなりました。やはりアドバイスいただいた通り50倍程度までが快適そうでした。それでも短時間であれば100倍くらいでも手動追尾はさほど大変ではなさそうです。
また、アスフェリック31mmとの組み合わせでは耳軸の位置よりもやや上に重心があるようで、天頂付近ではビノが「おじぎ」することが何度かありました。
しかしこの点は、汎用プレートの下に夜露対策ヒーターのバッテリーでも付けようかと考えていましたので、それでバランスをとれるのでむしろ好都合だったかもしれません。

総合すると、さっと出してさっと運べるセットで、今まで双眼望遠鏡の大きさや重さに抵抗を感じて踏み出せなかったのですが、これなら気軽に使い倒せそうです。
90mm F540という組み合わせは、8cmでは物足りないけど10cmでは大きく重すぎるというときの絶妙な妥協点と感じます。
低倍率を出しやすく、同時に9cmの光集力で星雲星団も美しく見え、夜空をあてもなく流すのにベストなスペックだと思いました。
これから夏の対象が見やすくなってくるので、とても楽しみです!

オーナー様、素敵なレポートありがとうございました。明け方近くまでご夫婦で楽しまれた様子が手に取るように分かります。製作者冥利に尽きます。

おっしゃるとおり、この対物レンズユニット(9cmF6)は、大きすぎず、小さすぎず、絶妙な組み合わせです。どうぞ引き続きこのビノで、楽しい時間をお過ごしください。

EZMの納期と価格について

先月今月と、いまだかつてないペースで注文をいただき、まだ数ヶ月は大丈夫と思っていたEZMのパーツがあっという間に払底してしまいました。次ロットのパーツはすでに発注済みですが、入荷は6月以降になると思われます。ついては明日以降ご注文いただくEZMやそれを含む製品(BINOKIT等)の納品は6月以降になります。お待たせすることになって大変恐縮ですが、どうかご承知おきください。

また円安の影響でパーツの調達コストがかなり上がりそうです。ついてはこれもまた恐縮ですが、6月以降EZMの価格を5~10%値上げします。新価格の確定はパーツ入荷時期の為替レート次第です。

なお、納品は次ロットパーツ入荷後になりますが、5/31までに注文くださった方へは、現状価格で販売いたします。販売店様経由で注文くださった方も同様です。

ご不便をかけますがどうかよろしくお願いします。

BINOKIT on HF2経緯台

先日納品したBINOKITを紹介させていただきます。

お客様のご要望で、ビクセンHF2経緯台に載せました。対物レンズはオプションの9cm3枚玉SDアポ対物レンズユニットです。この対物レンズユニットはコンパクトなので、比較的華奢なHF2経緯台に載せても違和感がありません。BINOKIT本体もコンパクトなので、ビクセン汎用プレートのコの字の中に余裕で収まっています。

HF2経緯台のフォークはオリジナル状態で45度ぐらいの角度になります。それでは転倒の恐れがあるので、写真のような角度で固定できるようHF2経緯台の水平支持軸に追加工がしてあります(割りとよく行う追加工です)。

汎用プレートの深さをいっぱいに伸ばした状態でBINOKITが載せてあります。これにアイピースをつけると、クランプフリーの状態で、天頂姿勢のバランスが取れています。

少しわかりにくいのですが、BINOKITを底から見た写真です。先述の通りBINOKIT本体は余裕で収まっているのですが、接眼部微動ノブが横に張り出しているため、フォークの内側ぎりぎりです。目幅でいうとMAX65mmまでになります。

アリミゾ金具はビノテクノオリジナル製

汎用プレートに取り付けたアリミゾ金具です。BINOKITの場合、「鏡筒バンドに対して鏡筒をずらして前後のバランスを取る」ことが出来ないので、こういう架台に取り付けるときはアリガタ金具とアリミゾ金具を設けて前後バランスが取れるようにします。またアリミゾ金具を汎用プレートからオフセットして取り付けてあるのは、アリミゾ金具のハンドルを操作しやすくするためです。

以前販売していた10cm対物レンズユニット(10cmF7)では、対物レンズが大きく重かったので、HF2経緯台とBINOKITの組み合わせを推奨していなかったのですが、この対物レンズ(9cmF6)に限ってはベストマッチしていると、作ってみて思いました。

目幅が測定できるアプリ

お客様から眼鏡フィッティング用の海外アプリを教えてもらいました。この中の機能で目幅が測れます。アプリの名前はGlassesOnです。少なくともAndroid版があります(iOS版があるかどうかは不明)。

Google Playから上記アプリをダウンロードして起動すると、こんな画面が現れます。

使うのは下半分のPupillary Distanceです。Start PDをタップすると、磁気カード(キャッシュカード等)と明るい照明を準備するようガイダンスが出ます。

続けてSounds good!をタップすると、次のような画面が現れます。

さらにShow me howをタップすると、動画で測定方法の説明があります。その説明によると、磁気カードを額に当てて、スマホのカメラで自撮りします(他人が見たら異様な光景)。磁気カードのサイズは世界共通のようなので、自撮り画像から目幅を比較計測してくれます。

私の場合、57.5mmと出ました。以前メガネを作る時にメガネ屋さんで計測してもらったら58mmだったのでほぼ一致しています(それにしても狭い、、、)。

メガネ屋さんで測定してもらっている方はあえてこのアプリで測る必要はありませんが、分からない方はこのアプリを使うと把握できます。よければお試しください。

GS-200CCビノ完成

まもなく納品する双眼望遠鏡です。数日前に完成しました。オーナー様の了解を得て、こちらで紹介させていただきます。

鏡筒は笠井トレーディングの純カセグレンGS-200CCです。

バックフォーカスを稼ぐため、標準で付属しているフォーカサーは撤去しました。ピント調整はBORGの直進ヘリコイドSです。

計画当初、2インチアイピースが使えないか模索したのですが、バローレンズを使わない限りピントが出ません。ちなみにバローレンズを使う場合、EZMの先端に取り付けるため、合成Fが35~40ぐらいになります。最低倍率が300倍以上となってしまい、現実的ではありません。オーナー様と相談し、苦渋の選択でこのようなアメリカンサイズ専用としました。

架台はケンコー・トキナーAZ-EQ6GT-Jで、いつものように剛性アップ改造を行いました。この改造を行うと、三脚取付部との剛性が上がるだけでなく、不動点が三脚中心の真上に来るのでさらに安定します。

片側には5kgのウェイト2個、もう片方には約5kgのバッテリーが載せてあります。

鏡筒取付部はアリミゾ金具を使いました。これまでは特注で鏡筒バンドを製作していましたが、鏡筒が太くなればなるほどコストが上がるので、今回はこの方式にしました。

右側の目幅調整機構です。高剛性の2列のリニアモーションベアリングに沿って、鏡筒が平行移動します。アリミゾ金具はビノテクノオリジナルです。

左側の鏡筒方向微調整機構です。CRDL-miniの機構を採用しました。この機構で左右の鏡筒平行をしっかり出しておくと、EZMのXYツマミ調整量が最小限に済んで、視野回転が起こりません。

最後にインプレッションです。自宅のベランダで観ました。

まずはパンオプティック24mm(100倍)で火星と木星を。スパイダーが太いので十字の光芒が出ますが、単眼の150倍ぐらいの解像度で模様が見えます。

M37も視野いっぱいに微光星が広がって美しい眺めです。これぐらいの倍率なら、星像は問題なくシャープです。自宅は一応市街地なので肉眼で見える星はせいぜい3等星、10センチ双眼でのベランダ観望で、微光星はここまで見えません。口径の威力です。

オリオンの大星雲も大きな広がりこそ見えませんが、中心部のガスの濃淡は迫力がありました。

デロス10mm(240倍)に交換して木星を再び見ました。この倍率でも木星像は破綻することなく美し い佇まい。特筆すべきは色階調のよさです。明るいオレンジから茶色のような色まで楽しく観察できます。

主鏡の焦点距離が長いので、低倍率広視野の観望は出来ませんが、逆に言うと無理なく高倍率が出せるのがこのビノの特徴と言えます。惑星だけでなく、球状星団や惑星状星雲にも威力を発揮しそうです。