気になる機材の購入はお早めに

中国や台湾には望遠鏡のOEMメーカーがいくつかあります。これらのメーカーは、一般ユーザーに直接販売することはありません。自社ブランドもありません。世界中のエンドユーザー向けメーカーやディーラーへ製品を供給する黒子的存在です。自社製造していると私たちが思っている製品も、実はこういったOEMメーカーで製造されている場合が多いようです。ただし、各供給先の仕様や要望に合わせて大なり小なりデザインが変えてあるので、まったく同じものが複数のブランドで販売されることはありません。

また、これらOEMメーカーへの発注は、例えば屈折望遠鏡なら最低100本以上と言われています。大量発注しないとコストが下がらないからです。当然発注者(エンドユーザー向けメーカーやディーラー)は全量買取なので、市場で売れなかった場合のリスクは発注者が負います。

そして多くの場合、初回発注分でその製品は終わりです。よほど売れる見込みがなければ追加発注はありません。仮に追加発注したとしても、OEMメーカーの都合で供給停止になる場合があるようです。

そういうわけで、気になる鏡筒やアイピースは早めに購入されることをお勧めします。

六角レンチはボールポイントがお勧め

仕事で使われる方や、DIYをされる方には当たり前すぎる情報ですが、望遠鏡の組み立てに使う六角レンチは、「ボールポイント」というタイプがお勧めです。これはL字の長い側の先端が、下の写真のようにボール状になっているタイプです。ボール状になっているおかげで、六角穴付きボルト(いわゆるソケットボルト)を回すとき、ボルトに対して六角レンチが多少斜めになっていても回すことができます。これを使うと組み立て作業の効率が上がります。暗がりの中で使うことが多い私たちにはとても便利な工具と言えます。

もちろんボールポイントタイプは普通のものより高価なので、付属品として同梱されることはありません。写真のものはボールポイントの中でも少し高級品の部類で、4,000円以上します。

また、ボルトをしっかり固定するための最後の一締めは、L字の短い側の先端(ボール状になっていない側)で行います。ボールポイント側で強く締めようとすると、ボルトの六角穴にボールポイントが食いついて取れなくなったり、六角穴がゆがんだりするので注意が必要です。

望遠鏡のユーザーさんは必ずしも工具に詳しい方ばかりではないので、あえてこういう情報も書かせていただきました。参考になれば幸いです。

「忙しい」ということばの怖さ

2017年も残すところあと一日。みなさんますます忙しい時間をお過ごしとお察しします。

この「忙しい」ということば、普通によく使いますが、私はあるときこのことばの怖さに気づいて以来、慎重に使うようにしています。なぜなら、「忙しい」は、自分の優先順位を示しているからです。

身近な例でいえば、「仕事が忙しいから家族と過ごす時間がない」は、「家族と過ごす時間より仕事を優先する」を意味します。問題は、この優先順位を相手(この場合は家族)が納得するかどうかです。昭和のモノカルチャーの時代なら「そんなのあたりまえじゃん」で終わりですが、今はそういう時代ではありません。その優先順位に家族が不満を持っていると、家族は大きなストレスを抱えます。

同様に、「・・・で忙しい、だからコレコレができませんでした」という言い訳は、その優先順位を相手が納得する場合のみ成立します。納得されない可能性があるなら、言わない方がいいです。無神経に自分の優先順位を押し付けてしまうと、後回しにされた相手の怒りに火をつけます。

もちろん逆の立場の時もあります。お願いしてあったことがなかなかしてもらえず、催促したときに「すみません、コレコレで忙しくて、、、」と言われた場合、その優先順位に納得できないと「ああ、私がお願いしたことはそれよりも優先順位が低いのね」と、がっかりします。

「忙しい」ということばは本当に怖いです。

スーパー10センチ ”D104″

昨日特注品としてHPの写真紹介コーナーに掲載したD104ビノは、実は自分用です。今夏胎内星祭りでこの鏡筒に出会って一目ぼれしてしまいました。昼間の景色を見ただけでただものでないことがすぐわかりました。今までそれなりにいろいろな鏡筒を見てきましたが、これだけ心に刺さった鏡筒ははじめてです。たまらず、自分用に注文してしまいました。

先月行われたスターパーティー・双望会の2日目の夜は快晴に恵まれ、そこでこのビノのファーストライトを得ました。明るい星が点像のまま明るく、あるツアイスオーナーからは「光が一点に集まり過ぎて星の色がわかりづらくなるのは、ツアイス鏡筒を除いて久しぶりの経験」というお言葉をいただきました。

コントラストも素晴らしく、夜半に南中したM42のガスが、千切れ雲のように星雲本体から離れたところに点在する様は痛快でした。期待以上の見え味に、私以外の参加者も興奮気味でした。現実に入手可能で、ビノ製作が可能な10センチとしては、D104は私が知る範囲で最高の鏡筒です。

ちなみにこの鏡筒の製作メーカーは、台湾のLong Perng(ロンパーン)という、通常は表に出てこないOEMメーカーです。販売元が別件でこのメーカーを訪問した際、偶然発掘した鏡筒だそうです。HPには赤い鏡筒バンドで紹介されていますが、販売元の意向で、日本向けは緑色となっています。

銀ミラー、ラインナップに加えました

ご要望の多かった銀メッキミラー仕様のEZMを製品ラインナップに加えました。

銀ミラーは、可視域で最高の反射率を有する『銀』を用いた高反射ミラーです。銀メッキそのものは耐食性が低いため、誘電体保護膜(増反射膜)がコートされています。アルミメッキを剥がして銀メッキを行うとムラが出やすいため、ビノテクノでは無メッキミラーを調達し、京浜光膜工業様に依頼して銀メッキを施しました。完璧な反射率にこだわるユーザーにお勧めのミラーです。

参考:京浜光膜工業/銀ミラー

一度知ったら止められない

導入支援は便利です。カーナビ同様、一度体験したら止められません。

かつて、そういうものを使うのは『邪道だ』ぐらいに思っていました。星図を見なくても次々と天体の導入ができる人を『人間スカイセンサー』と呼んで褒めたたえ、自分もそれを目指していました。

ところが星見の頻度が減り、マイナー天体の場所が怪しくなってくると、星図のお世話になります。そしてその作業すら億劫になってきました。そんなとき私の目の前に現れたのが導入支援です。

導入支援には、星図ソフトに表示される望遠鏡の位置を見ながら自分で望遠鏡を動かす『Push TO』タイプと、架台のモータが望遠鏡を動かしてくれる『Go To』タイプがあります。

『Push To』の代表格は、架台の2軸に取り付けたエンコーダの現在値をWi-Fiで送信できる『NEXUS』と、その現在値を取り込んで星図に表示させるスマホアプリ『Sky-Safari』の組み合わせです。エンコーダとNEXUSが組み込まれた経緯台も商品化されているようですし、自作架台用に、エンコーダとNEXUSのキットも販売されています。

一方『Go To』は、タカハシ、ビクセン、スカイウオッチャー、ケンコー・トキナーなど、メーカー製の架台に組み込まれています。これらの架台はモータ付なので、当然自動追尾機能もあります。高倍率での惑星観望などに有利です。私個人はケンコー・トキナーのAZEQ6GTという架台を使っていますが、これに搭載されているSynScanコントローラは操作が直感的にわかりやすく、重宝しています。さらに、ステラナビゲータのような天文シミュレーションソフトとも連携できます。

いずれのタイプも、昔に比べれば随分リーズナブルな価格で提供されるようになりました。架台にこういう機能があると、一晩に見られる天体の数が増えます。観望会でとっかえひっかえいろいろな天体を見せる時も、人を待たせなくていいです。

今でも自力導入で頑張っている仲間たちからは、『裏切り者』と呼ばれていますが(笑)、そのうち大半はこちら側へ来ると予想しています。

 

HINODE80SDビノ

日の出光学のHINODE80SD鏡筒2本を使った双眼望遠鏡を製作しました。

クレードルのベースはCapri102ED用ですが、鏡筒径を90mmに変更してあります。依頼者の希望で、ビクセンのHF経緯台に搭載できる仕様になっています。

※ 画像をクリックすると紹介ページにジャンプします。

ツブツブ系とサラサラ系

写真屋さんにはあまり人気がありませんが、散開星団は眼視派にとって、何回見ても飽きない対象です。

その散開星団を私はひそかに、『ツブツブ系』と『サラサラ系』の2種類に分類しています。

ツブツブ系は、比較的明るい星が目立つ星団です。代表格は二重星団、M35,M36,M38など。双眼で見ると、明るい星が手前に見え、暗い星が奥に見える、妙な立体感があります。

サラサラ系はたくさんの暗い星で構成された星団です。代表格はM11,M37,M46など。両目で見続けると、初めは頼りなく見えていた暗い星々が、じわじわと、そしてはっきりと見えてきます。黒い漆の盆に白い砂をまいたような景色です。このサラサラ系こそ、双眼望遠鏡で見ていただきたい対象です。手持ち双眼鏡ではパッとしなかったこれらの散開星団も、口径と倍率が大きくなるとまったく違う見え方をします。ちなみに私の最近のお気に入りは、カシオペア座のNGC7789(←サラサラ系)です。

秋冬は、見ごたえのある散開星団が多い季節です。ぜひお楽しみを。

加工屋さんの身も蓋もない話

これももう10年以上前の話です。

仕事で知り合ったある金属加工業の営業さんにこんな質問をしました。「御社は難しい加工もきちんとそつなくこなされています。やはり腕のいい職人さんをたくさん抱えていらっしゃるんですか?」

「まあそれも大事かもしれませんが、」という前ふりで始まったその営業さんの答えは、私にとって意外な内容でした。

「まあそれも大事かもしれませんが、一番大事なのはいい工作機械を買うことですね。それがあれば、すごい職人でなくてもきれいに加工できますよ。」

私の頭の中にあった、金属加工の古いイメージが音を立てて崩れました。凄腕の職人さんが、長年の経験を頼りに工作機械を操って部品を仕上げていく世界は、このときすでに昔話になりつつありました。

今日、名古屋ポートメッセで開かれている工作機械見本市『メカトロテックジャパン』に行ってきました。工作機械は今も進化し続けています。

EZMの設計

30年以上機械設計に従事していますが、若いころはこの仕事について少し勘違いしていました。適切な機構を考案し、それを図面にすればよいのだと。

大事なことが欠けていました。それは計算することでした。

どんなに画期的な機構を考案しても、設計者の仕事としてはまだ半分です。そこから、強度や剛性、要求精度に対する必要精度などを計算しなければなりません。そこまでやって、はじめて設計の仕事をしたと言えます。計算もせずに作成した図面で機械を作り、あとで不具合を対処療法的に改善していくという仕事の進め方は、設計者としては失格です。もちろん設計者でもミスはあります。しかし計算してあるのとないのとでは、ミスのレベルが違います。小さいミスは挽回可能ですが、大きいミスは最悪全部作り直しです。

また、計算するということは、理論も熟知していなければなりません。理論があって計算があります。

ビノテクノのEZMを設計したときも、徹底的に計算を行いました。

EZMの設計で最も気を使ったのは、正確な視野回転量(=180.0度)の確保です。EZMはいくつかのパーツに分かれますが、それらがいったいどれぐらいの精度で作られていなければならないかを計算しました。そのためにオリジナルの理論式も作りました。

その結果、下記の3つの精度が特に重要であることがわかりました。

1 第1ミラーケースと第2ミラーケースのねじれ角度(理論上は70.53度)

2 第1ミラーケースの頂角(理論上は60.0度)

3 第2ミラーケースの頂角(理論上は60.0度)

特に1の精度は敏感で、これが0.1度狂うと、視野回転量もほぼ0.1度ずれます。0.1度というとピンと来ないかもしれませんが、たとえばミラーケースの接続リング外径を60mmとすると、0.1度は外周上で約0.05mmに相当します。2、3も1ほどではありませんが、それなりに敏感です。

ちなみに視野回転の許容ずれ量は、ビノテクノでは0.5度以下としています。事前に行った実験の結果、敏感な人は0.5度ぐらいからずれに気づくことがわかったからです。

これらの計算から、ビノテクノ製EZMでは、1,2,3の許容角度をそれぞれ0.1度以下と設定しました。

このため、1については、部品の加工精度と構造でねじれ角度を保証し、調整レスとしました。2,3については、ダイカストも含めてアルミ鋳物では要求精度が満たせないと判断し、5軸CNC加工機による削り出しとしました。

ビノテクノ製EZMをコピー製品と思われている方もいるかもしれませんが、ここまで読んでいただいてお分かりの通り、オリジナルの設計思想に基づいた製品です。ユーザーを調整作業から解放するために製品化しました。

 

作曲家はピアノを使わない

10年以上前のことです。運転中のラジオから、音楽家・団伊玖磨氏の語りが聞こえてきました。この少し前に亡くなられたので追悼番組だったと思います。この中で団伊玖磨氏は興味深い話をしていました。

「ピアノがないと作曲できません、という作曲家はプロではありません。取材を受けるとき撮影用にピアノへ向かうことはありますが、ピアノは使わないようにしています。」

そしてこれに続く言葉が私に刺さりました。

「ピアノに頼ると、自分のピアノテクニックで表現の幅が制限されてしまいます

それから月日が経ち、2年前、ビノテクノの起業をある方に相談したところ、「自分で金属加工ができないのは致命的だ、やめた方がいい」というアドバイスをいただきました。そのとき、この団伊玖磨氏の話を思い出して、こう考えました。

「たしかに金属加工はできないが、私には設計スキルがある。自分が作りたいものは設計図面で表現できる。金属加工ができるなら加工業者としての取り分も自分の収入になるが、双眼望遠鏡本来の付加価値はそこにはない。顧客から見た付加価値は、使いやすいか、安心して使えるか、欲しいと思ったときすぐに手に入るか、であって、だれが金属パーツを加工したかではない。」

結局アドバイスに逆らって起業したことになりますが、金属加工ができなくてもこのビジネスが成り立つことを証明したいと奮闘しています。

『趣味』について思うこと

「趣味とは?」と問われればいろいろな定義がありますが、私が聞いた中でもっとも納得したのが、経済的合理性のない行為という定義です。つまりコスパ(コストパフォーマンス)とは無縁の世界です。

「そんなもの買うならこっちの方がいいのに」「自分で作るより買った方が安いよ」、、、すべて要らぬおせっかいです。ご本人はこっちがいいんです。自分で作りたいんです。それが楽しいんです。そう、楽しいかどうかが重要な尺度です。

また、趣味は深くなればなるほど、その方向性もどんどん細分化していきます。しかしその最先端にいる人たちの多くは、別の方向にいる人たちと仲良くやってます。それは、そもそも方向性に正解も不正解もないことをよく理解されているからです。また、そこにたどり着くまでにどれだけの努力が必要だったかを想像することができ、お互いをリスペクトしているからです。

私自身は起業してしまったので、望遠鏡については『趣味』と言えなくなってしまいましたが、約20年スターパーティーの主催をさせていただいたおかげで、趣味というものを深く理解することができました。この理解をこれからは製品に反映していきたいと考えています。

中倍率も面白い双眼望遠鏡

特に星雲星団の観望がお好きな方には、50~80倍の中倍率をお勧めします。

この倍率で二重星団やM42を見ると視野からはみ出してしまいますが、別の見方をすれば、はみ出してしまうほど大きい星雲星団はそれほど多くありません。たとえば110番まであるメシエ天体のうち9割以上が視直径30分(=0.5度)以下です。10分未満も多いです。NGC天体も同様です。

これだけ小さい天体を見るのに、実視野は2度も要りません。1度ぐらいあれば十分です。さらに言うなら、広い見かけ視野+高倍率が見やすいです。例えば、どちらも実視野は1度ですが、見かけ視野50度で倍率50倍より、見かけ視野80度で倍率80倍の方がより詳細な観察ができます。

視直径の小さい星雲星団は、倍率を上げることで表情ががらりと変わります。低倍率ではただの小さい星の集まりに見えた地味な散開星団が、中倍率では星の配列がはっきりわかり、微光星もいっぱいあったりして、まったく違う印象になります。同じにように見えていた星雲星団が、実はそれぞれ個性のあることに気づきます。

低倍率でしか見たことのない天体は、あらためて中倍率でご覧になることをお勧めします。特に双眼望遠鏡では両目が使えるので、さらに認識力がアップします。同じ倍率でも単眼と双眼では別世界です。

低倍率が得意な双眼望遠鏡

20倍から30倍は、屈折式双眼望遠鏡のもっとも得意とする倍率です。

単眼の望遠鏡に組み合わせて使用する双眼装置は、リレーレンズを必要とするので主鏡の合成焦点距離が長くなり、この倍率が出せません。さらに言うと、2インチサイズのアイピースが使える双眼装置は今のところ市販されていません。また、ニュートンやカセグレンのように中央遮蔽のある鏡筒に長焦点アイピースを組み合わせると、副鏡の影が見えて不快です。

この倍率での観望は双眼望遠鏡の独断場です。

見かけ視野60度以上のアイピースを使えば実視野は2度以上、二重星団、M42、M31、プレアデスの全体が見渡せます。星雲星団にこだわらなくても、天の川の濃い部分に双眼望遠鏡を向ければ、手持ち双眼鏡より集光力があるため、微光星がびっしり見えて星の多さに驚きます。頭から暗幕をかぶって完全に外の光をシャットアウトすれば、まさに気分は宇宙遊泳です。

手持ち双眼鏡の観望が好きな人はきっとこの倍率が好きになります。

双眼望遠鏡観望の必須アイテム

人間は立っているとき、頭を長時間静止させることができません。理由はよくわかりませんが、人間の身体はそのようにできているようです。このことが、立ったままの長時間観望を困難にしています。アイピースに対して目の位置が固定できないからです。

ところが、座ったり、片手で何かにつかまったりすると上半身が固定され、長時間観望が可能になります。

うまい具合に屈折式双眼望遠鏡のアイピースは低い位置にあるため、椅子に座って観望することができます。椅子に座る効果は絶大で、同じ対象を快適に見続けることができます。パッと目には見えなかった微光星や星雲の形が、じっくり見ることでじわじわと浮かび上がってきます。さらに言えば、一晩中観望していても、足腰の疲れを感じません。もちろん目は疲れますが(笑)。

使う椅子は、座る高さを変えられるタイプが好ましいです。移動観測で使う場合、折りたためることも条件です。具体的には、国際光器のエコノミー観測チェアやルネセイコウのワーキングチェア(Amazonで購入可能、各種あり)などがあります。望遠鏡が天頂を向くとアイピースの位置はかなり低くなるので、なるべく低い位置まで座面が下げられるタイプがお勧めです。