作曲家はピアノを使わない

10年以上前のことです。運転中のラジオから、音楽家・団伊玖磨氏の語りが聞こえてきました。この少し前に亡くなられたので追悼番組だったと思います。この中で団伊玖磨氏は興味深い話をしていました。

「ピアノがないと作曲できません、という作曲家はプロではありません。取材を受けるとき撮影用にピアノへ向かうことはありますが、ピアノは使わないようにしています。」

そしてこれに続く言葉が私に刺さりました。

「ピアノに頼ると、自分のピアノテクニックで表現の幅が制限されてしまいます

それから月日が経ち、2年前、ビノテクノの起業をある方に相談したところ、「自分で金属加工ができないのは致命的だ、やめた方がいい」というアドバイスをいただきました。そのとき、この団伊玖磨氏の話を思い出して、こう考えました。

「たしかに金属加工はできないが、私には設計スキルがある。自分が作りたいものは設計図面で表現できる。金属加工ができるなら加工業者としての取り分も自分の収入になるが、双眼望遠鏡本来の付加価値はそこにはない。顧客から見た付加価値は、使いやすいか、安心して使えるか、欲しいと思ったときすぐに手に入るか、であって、だれが金属パーツを加工したかではない。」

結局アドバイスに逆らって起業したことになりますが、金属加工ができなくてもこのビジネスが成り立つことを証明したいと奮闘しています。

『趣味』について思うこと

「趣味とは?」と問われればいろいろな定義がありますが、私が聞いた中でもっとも納得したのが、経済的合理性のない行為という定義です。つまりコスパ(コストパフォーマンス)とは無縁の世界です。

「そんなもの買うならこっちの方がいいのに」「自分で作るより買った方が安いよ」、、、すべて要らぬおせっかいです。ご本人はこっちがいいんです。自分で作りたいんです。それが楽しいんです。そう、楽しいかどうかが重要な尺度です。

また、趣味は深くなればなるほど、その方向性もどんどん細分化していきます。しかしその最先端にいる人たちの多くは、別の方向にいる人たちと仲良くやってます。それは、そもそも方向性に正解も不正解もないことをよく理解されているからです。また、そこにたどり着くまでにどれだけの努力が必要だったかを想像することができ、お互いをリスペクトしているからです。

私自身は起業してしまったので、望遠鏡については『趣味』と言えなくなってしまいましたが、約20年スターパーティーの主催をさせていただいたおかげで、趣味というものを深く理解することができました。この理解をこれからは製品に反映していきたいと考えています。

日本の空が暗くなった?

あまり実感はありませんが、日経ビジネス9月25日号によると、日本の夜の明かりは減少傾向にあるそうです。ただしその理由は国民の省エネ意識の向上ではなく、夜の経済の衰退だそうです。人口減少、高齢化、健康志向、SNSの普及などで夜遊びする日本人が減ってしまったため、夜の歓楽街はじり貧、24時間営業だったお店も深夜は閉店するようになりました。

空が暗くなるのは天文ファンにとって喜ばしい傾向ですが、夜の経済の衰退は、回りまわって昼の経済にも影響するそうです。手放しで喜んでいいものか、微妙です。